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ほんとに明治神宮は日本一の金持ち神社なのか?
神宮外苑地区まちづくりの事業者である宗教法人明治神宮。
明治神宮は儲かっているのに、さらに儲けたいのか、という指摘が一部でなされている。儲かっているという根拠に疑問を感じたので、出典の雑誌の内容を確認してみた。
神宮外苑再開発は明治神宮の財政難対策?
開発反対運動を主導するロッシェル・カップ氏は、「神宮外苑まちづくりについてよくある誤解」というオンラインセミナーで「明治神宮が財政難対策が理由で神宮外苑の再開発をするというのは誤解だ」と主張している。
スライド1ページを費やし、週刊ダイヤモンドの過去記事を参考に、明治神宮は「日本で一番の金持ち神社」とし、増収増益を目的とする再開発は必要はない、という趣旨の発言をされている。
当該の箇所は、『誤解②神宮外苑再開発の理由は、明治神宮の財政難対策』というトピックで、6分25秒あたりから。
こちらが、週刊ダイヤモンドの記事内容を引用したスライド。
140億円の売上があるとしている。年度を書いていないのが気になる。
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Twitterでこのような投稿をされている。
「神社の中で間違いなく、明治神宫は一番お金持ちですよ。…明治神宮の収益事業は非常に儲かっているはずでしょう」💹💹💹
— ロッシェル・カップ (@JICRochelle) July 3, 2023
必見の会話!https://t.co/WABPv2U8Ji#神宮外苑伐採始めないで pic.twitter.com/DHZNvIhkQ8
週刊ダイヤモンドを入手した
わたし自身は、明治神宮外苑の植栽の整備状況や、聖徳絵画館の天井のボロさ加減等々、もともとそんなに儲かっていないところに、さらに2020年からのいわゆるコロナ禍で収入が激減し、現在はさらに厳しい財務状況だと推測している。なので、「儲かっている」という指摘に違和感を持った。
本当にそんなことが書いてあるのだろうか?
儲かっているという主張の根拠にしている週刊ダイヤモンドの2016年4月16日号を入手した。
Kindle版はこちらから入手可能。特集部分だけ抜き出したバージョンで、かなりリーズナルブルに購入できます。
該当ページはこちら。
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見出しに「日本で一番の金持ち神社明治神宮は収益確保にご執心」とある。
ここで最初に明確にしておきたいのは、ロッシェル・カップ氏が主張する論旨での「金持ち」の定義である。
財政難だから、財政を改善するために再開発をし、売上・利益を増やそうとしている。しかし、実際は財政難ではない、お金を持っている(利益をあげている)から、再開発は不要であると、ながれで「金持ち」という言葉を使っているので、ここでは、資産を持っているという意味での「金持ち」はあたらない。
「儲かっている」という状態のことだ。
儲かっているとは、利益額が多い、もしくは利益率がよい状態のことだ。
本記事では「日本で一番の金持ち神社」とは、利益額が日本一番の神社、とする。
ふつうは、そう理解するだろう。
明治神宮は儲かっているのか?
さて、本文を読んでいくと、たしかに公益事業(賽銭、おみくじ、玉串料、祈祷料等)の収入は多いが、明治神宮の維持費用で大赤字らしい。
ところが、こうしたさい銭など本業の「公益事業」だけでは、「70万平方㍍もある神宮の敷地に掛かる莫大な維持・管理費用を賄えず、大赤字になってしまう」と明治神宮関係者は打ち明ける。
つづいて、収益事業(ブライダル事業や飲食店等)の売上の記述があるが最後の段落の小見出しはこうである。
「群を抜く収入でも実際は赤字財政?
巨大再開発に前向き」
そして、内情を知る関係者が経営はむしろ苦しいといっている。
明治神宮の崇敬会関係者は、「10年前の明治神宮は、赤字財政で、それを黒字化するため、神宮球場のドーム化を当時の宮司が計画した」と明かす。20年に明治神宮が鎮座100年を迎えるために何かと物入りで、経営はむしろ苦しかったというのだ。
それを補強するように、神社本庁の元職員が明治記念館(ブライダル事業等)の経営不振を言及している。
また、ドーム化計画が持ち上がったのと同時期に、神社本庁の元職員で有力神社の宮司が、明治記念館の経営不振について月刊誌で言及しており、明治神宮の収益面における厳しい内実の一端をうかがい知ることができる。
以上から、明治神宮の経営状態は厳しいことがうかがえる。
そして、一度再開発プロジェクトが持ち上がったものの、それは頓挫してしまう。頓挫しても財務が厳しいのは変わらないので、今回の「神宮外苑地区まちづくり」計画につながるようである。
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ロッシェル・カップ氏は明治神宮は財政難ではない、だから収益を増やすことを目的とした「神宮外苑地区まちづくり」計画は不要である、と主張する。
明治神宮が財政難というのは誤解であると言っている。
しかし、根拠としている週刊ダイヤモンドの記事からは、明治神宮が儲かっているという情報は読みとることができない。
記事中の事業の売上数字だけを書き出して集計し、明治神宮が儲かっている、「明治神宮は一番お金持ち」と断定はできない。
もっともらしい情報を元に、再開発計画が必要ないことの根拠にしているがこれは誤り、ミスリードである。
ロッシェル・カップ氏に少しでも良心があるなら、詫びて訂正することをおすすめする。
(注)ロッシェル・カップ氏がこの記事から読み取れる売上額を転載されているが、この数字に関して、そもそもの出典を補足しておく。
記事中の収益事業の118億円は信用調査会社(恐らく帝国データバンクか東京商工リサーチであろう)からのデータで、2010年のものである。
公益事業の売上額は、「明治神宮外苑七十年誌」に記載の売上の内訳(割合)と2010年の収益事業の数字から導いた数字である。
そして「明治神宮外苑七十年誌」記載のデータは、1996年のデータである。あくまで誌上で売上規模を推計したものである。
週刊ダイアモンド発売時ですでに14年前の数字を用いており、さらにこの週刊ダイヤモンドが2016年の号であることを考えると、2023年の現時点で「明治神宮が儲かっている」という根拠とするには、かなり無理がある。
ざっと30年前の数字、前世紀の数字だ。
常識的なビジネスマンであれば、この数字を使わないか、使うとしても上記のような理由を併記するだろう。
この点においても、ロッシェル・カップ氏は不誠実であると私は考える。
2023/08/22 追記
明治神宮社務所から明治神宮崇敬者(いわゆる氏子)へお詫びの文章が送られたようである。
神宮球場の建てかえの必要性と、現地建替では主要な収入源であるプロ野球の興行収入が途絶えるため、公益事業(内苑)への繰り入れができなくなり、運営が困難となる説明がなされた。
明治神宮社務所より「神宮外苑地区まちづくり計画」への参画についてと言うお詫びから始まる文書を頂戴した。普通の情報リテラシーがあればこの再開発に何ら問題がない事はわかりそうなものだが、崇敬者からも問い合わせがあるのだろうか。私はご趣旨を理解し、明治神宮外苑再開発に賛同致します。 pic.twitter.com/o8H4ix7fkS
— ⛩いよかん#明治神宮外苑の再開発で明治神宮を守ろう🎌 (@iyocan21) August 21, 2023