”国境の長いトンネルを抜けると雪国であった”
そう書くと、読者は雪国に来たんだねと理解する。
筆者がそう言ってるんだもん、間違いないでしょって。
小説だったらそれでいいんだけどね。
このタイトルにした有名な書き出しテキストの面白いところは、パッと読んだとき、おそらく殆どの人は、これは鉄道なのか車なのか、朝なのか昼なのか夜中なのか、なんで雪国なの?雪国っていう地名かもねとかそういうことは気にしない。雪国に来たんだもん、言ってるんだもんそうに違いないってね。
それぞれの雪国に没入する。
例えば、こういう表現があったらどうだろう。
谷を埋めるために土をトラックで運んだら90年かかります
貯めた電気を蓄電池で災害時にヘリで配ります、素晴らしいよね
このプランは熊本の防災顧問にお墨付きをもらいました
廃業したゴルフ場は安い。36億で買収するのはなにかある
小説ではないのだけど、小説と区別できない人が世の中にはたくさんいるんです。
いうて世の中の半分の人は、国語の成績の偏差値が50未満だからね。
あーなるほど、90年かかるんや、それじゃあかんなあ。
おー、蓄電池配るのか、それはナイスアイデアですね。
そんな立派な人がお墨付きを与えているんですね、すごい。
廃業したゴルフ場を高額で買うのはなにかある、利権だ!
そんな風にストレートに吹き上がれる人が世の中にはたくさんいるんです。
いままでは、SNSがないから可視化されなかったし、メディアも「賢い」人も煽らなかった。
けど、一部の人は気付いているし、その中の更に一部の人はチートにつかえると気付いたんですよ。
今は、そんなこんなのまっただ中。ほっといたら騙される人が増えてっちまう。
ホリエモンや森永卓郎が、金を買え、仮想通貨に投資しろって、いかにもな広告がFacebookで流れてきても、俺は騙されんぞって思うやん。
でも、騙されて何億も費やしている人いたよね。
まあ、世の中そういうことですよ。
…ほんとうは、冒頭の例文。「春が二階から落ちてきた」を使いたかったんですが、知らん人もおおいと思ったので。
”春が二階から落ちてきた。
私がそう言うと、聞いた相手は大抵、嫌な顔をする。
気取った言い回しだと非難し、奇をてらった比喩だと勘違いをする。
そうでなければ、
「四季は突然空から降ってくるものなんかじゃないよ」
と哀れみの目で、教えてくれる。”
伊坂幸太郎「重力ピエロ」、大好きな作品です。
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