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建国記念文庫の”森”はいつ出現したか
”建国記念文庫の森”という場所(言葉)があたかも古くから存在しているように使われています。しかし、これはつい最近、正確にいえば2022年5月に創られた言葉です。
本来存在しなかった場所に対して言葉を与えることで、あたかもそれが確固としてあるように思わせることは、なにかしらの新規政策やプロモーションで使われる手法です。”建国記念文庫の森”は、その誕生の瞬間が明確にわかる言葉なので記録として残そうと思いました。
Xでの初出
【5.14外苑WALK】⑥
— 原田あきら(日本共産党都議会議員/杉並) (@harada_akira) May 14, 2022
建国記念文庫の森。今写っている樹木は全て伐採。目の前に白い55mの壁が立ち上がる。 https://t.co/GorxSDryuN pic.twitter.com/wbNE09cQXK
日本共産党の東京都議会議員、原田あきらさんが2022年5月14日14時45分に投稿したのが初出です。これよりあとに、原田あきらさんは都議会で”建国記念文庫の森”という言葉を使ってらっしゃいます。
東京都議会都市整備委員会(2022年5月27日)
この委員会での原田あきらさんの発言に”建国記念文庫の森”がでてきます。長いですが、前後を含め引用します。
○原田委員・(略)
外苑には建国記念文庫という施設があり、その周りは大きな木々で囲まれていますが、今回、新ラグビー場建設で、この建国記念文庫の森が三分の二伐採されることが分かっています。
ところが、残る三分の一の森が、なぜか公園まちづくり制度で新たに設置する緑地等に含まれていることが分かったわけです。大量に伐採されて、残った樹木を新たに設置する緑地等に含むのは、明らかに間違いではありませんか。
○山崎都市づくり政策部長景観・プロジェクト担当部長兼務 平成二十五年十二月に策定いたしました東京都公園まちづくり制度実施要綱において、緑地等は、地区施設または主要な公共施設のうち、緑地、広場その他の公共空地をいい、人工地盤上のものを含み、屋内の部分を除くと定義しており、既存の樹木も、新たに植栽する緑も同様に評価しております。
○原田委員 一体何と答弁しているんですか、もう。
つまり、超高層ビルなどの開発を認める条件として新たに緑地がつくられるわけですが、その緑地はですよ、建国記念文庫の森を三分の二伐採してつくられる緑地だというわけです。信じられますか。不誠実を通り越して、都民を欺く行為じゃありませんか。
最後に、この計画は、環境問題の角度から見ても全く考慮を欠いているといわざるを得ません。
樹冠やその影によって地面が覆われる面積が高いほど温度を下げ、ヒートアイランド現象を軽減する効果がある。したがって、この樹冠に覆われる率を都市で上げていこうという考え方が国際社会でも、この東京都でも、そういう考え方があります。
「一体何と答弁しているんですか、もう。」という発言、”もう”という言葉にそこはかとないおかしみを感じるのは置いといて、この2回の”建国記念文庫の森”がこの世に建国記念文庫の森が現出された瞬間だと思われます。小さな倉が配置された場所に森とつけることで、あたかも鬱蒼とした森があるような場所であると認識されるようになった瞬間です。
日本ICOMOSが提言に採用
日本イコモスは「神宮外苑地区まちづくり」に関して執拗に提言を発出しています。その提言で”建国記念文庫の森”が使われたのは、2022年10月3日付けの『近代日本の公共空間を代表する文化的資産である神宮外苑の保全・継承についての提言 ---「社会的共通資本である都市の緑地」の保全に向けて---』という提言です。この提言5で言及されています。提言5の一部を抜粋します。
提言5
大規模な伐採が計画されている建国記念文庫の森については、新秩父宮ラグビー場と国立競技場に挟まれた位置に、建国記念文庫が移設される計画となっています(仮称:神宮外苑広場)。しかし、その位置や規模を示した資料は、提供されておりません。8 月 22 日の「PFI 方式による新秩父宮ラグビー場(仮称)整備運営等事業」の民間事業者決定」の資料でも、確認することができませんでした。
現地調査を行った所、現在、保存緑地となっている場所に、(仮称)神宮外苑広場が整備されると仮定した場合、樹木の保存に大きな影響が生じ、現在の森は、ほとんど保全していくことは、不可能となることが明らかになりました。
神宮外苑には、いちょう並木やスポーツ施設を取り囲む修景植栽等に加えて、現在の建国記念文庫の森のような自然林があります。この森は人工的に創り出された森ではありますが、内苑の森が自然林へと遷移が進んでいるように、今回の再開発地区における、ほとんど唯一の自然林です。樹齢 100 年を超える歴史的樹木は、68 本生育しておりますが、開発が行われれば、持続的に生育が可能となる樹木はわずか 3 本のみとなります。1%にも満たない数字であり、国民の献木により継承されてきた森は、その命運にピリオドが打たれることになります。
興味深いのは、たんに木々がある場所としての”建国記念文庫の森”という言葉が便宜的に使われているだけでなく、自然林であること、そして樹齢100年を超える歴史的樹木が生育する場所として記述されています。
木々が生えている場所として「森」が使われるだけでなく、2つの事実ではない属性が付加されます。
まず、自然林ではない。建国記念文庫は再開発が開始する以前はバイク駐輪場として利用されていた場所です。植栽のある公園に一部舗装路があり、その周囲にバイクを留め置きできる場所でした。このブログのサムネイルを観るだけでも、これを自然林とよぶのは無理があります。そもそもバイク置き場でなくても公園の木々を自然林と呼ぶこと自体おかしいですが。
次に、樹齢100年を超える歴史的樹木が68本という記述です。これはイコモスのヘリテージ・アラートでも言及されています。
全体で 3,000 本以上の樹木が破壊され、そのうち 500 本以上が樹齢 100 年以上、さらに 500 本が樹齢 50 年 以上と推定される。
本数は、計画地区全体での本数ですが、樹齢に言及しています。しかし、樹齢に関しては植樹時の記録が残っておらず、多数の木がある中で何本が樹齢何年とは言えません。事業者も明確に否定しています。
なお、「過去 100 年にわたって」「樹齢 50 年/100 年以上」という記述に関し、前述の通り事業者において樹齢を確定できる記録はございません。また、伐採予定の 743 本の樹木には神宮外苑創建時からの樹木も含まれます
が、一方で、近年になってから施設の建築・改築に合わせて植えられた樹木も数多く含まれています。
樹齢を調べる一番確かな方法は、年輪を調べることだそうです。年輪を調べることをしていないので、イコモス側も樹齢を根拠とするには証拠が不十分です。
まとめ
”建国記念文庫の森”という言葉を最初に使ったのは、Xでの投稿の日本共産党・都議会議員・原田あきらさんでした。
この調べ物の副産物として、イコモスが森でないところに安易に森といってしまっていることと、不確かな樹齢を元に提言やヘリテージ・アラートを書いていることも確認できました。イコモスの専門家とは思えない低レベルな提言内容は、ほんとどうにかしてほしいですね。