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マイケル・ジャクソン『バッド(BAD)』(1987年8月)発売時の販促宣伝パンフレット

マイケル・ジャクソン『バッド(BAD)』(1987年8月)発売時の販促宣伝パンフレット
 
【Pamphlet / Booklet About Album “Bad” As Promo-tool When It Is Released In Japan】
 
資料発掘。
 
マイケル・ジャクソンの『スリラー』に続く待望のアルバム『BAD』が1987年8月31日に世界同時発売されたとき日本のエピック・ソニーが販売促進用に制作した1頁A3判36頁の非売品豪華パンフ。倉庫に眠っているはずのものを別ルートから入手。音楽評論家5人がこのアルバムについて書いた。前から探していて、倉庫探しをしないとと思っていたもの。僕以外では大伴良則氏ライナーノーツ、湯川れい子氏、萩原健太氏、北中正和氏らの原稿。年表、ディスコグラフィー、マイケル語録、エピソード集、さらに、久保田利伸氏、岩崎宏美氏、大沢誉志幸氏、田原俊彦氏、いとうせいこう氏、坂西伊作氏らの談をまとめたコメントなどが掲載されている。
 
これは当時エピックでマイケル担当だったディレクター、清水彰彦さんに依頼されて書いたもので1987年8月5日に提出。アルバムは1回か2回しか聴いていない。最初のシングル「アイ・ジャスト・キャント・ストップ・ラヴィン・ユー」だけがリリースされていた段階。まだ何も楽曲のビデオ(ショートフィルム)がない時点だったので「まだあなたは何も見ていない」という点と、サウンド面でシンセを駆使していたジョン・バーンズに的を絞って書いた。久しぶりに自分の原稿を読んだが、ジョン・バーンズは当時シンクラビアとフェアライトの両方を持ち自身のスタジオに構えていたという。すっかり忘れていたw 
 
「音と映像が一致したとき初めてその全貌を表すことになる」と書いた。原稿執筆時点で「スムース・クリミナル」はもちろんのこと「BAD」のショートフィルムさえも見ていない。このマーティン・スコセッジーが監督したビデオ(ショートフィルム=SF)が全世界公開されるのは1987年8月31日アルバム発売と同時だった。
 
原稿冒頭に書いた「『オフ・ザ・ウォール』はクインシーのアルバム、『スリラー』はクインシーとマイケルが半々、この『BAD』はマイケルのアルバムになっている」あたりの感想は今も変わらない。全部で約3100字。僕の全文は下記に。
 
これは、非売品だったせいかヤフオクなどにもあまり出てこない。A3判とサイズが大きいので保管場所に困っていた。(笑) うちのマイケル関連の段ボールに入り切らなかったのでその近くに保管しているはずなのだが…。
 


(縦位置のマイケルの表1がA3判の大きさ)
 
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約3100字の『BAD』についての考察~サウンド面に的を絞って
 
吉岡正晴
 
マイケルの新作『BAD』についてここでは主としてサウンド面に的を絞って話を進める。

彼がエビックに移って以来、これでソロは3作目になるが、いずれもクインシー・ジョーンズのプロデュース。しかし、一作ごとにマイケル色が強くなっている点は大きな意味を持つ。極めて抽象的だが、「オフ・ザ・ウオール」はクインシー・ジョーンズのアルバム、「スリラー」はクインシー・ジョーンズとマイケル・ジャクソンの割合が5:5くらいになったアルバム、そして今度の「BAD」は完全にマイケル・ジャクソンのアルバムになった作品、と言えるだろう。

その意味でサウンド面での今作におけるクインシー・ジョーンズの寄与ぶりというのは過去2作に比べると少ない。それよりも今作におけるクインシー・ジョーンズのはたした役割は、プレッシャーで押し潰されそうになったマイケル・ジャクソンを助けることが出来た唯一の人物という点につきるのではないだろうか。もちろん彼なしにこのアルバムは完成しなかったのだから、やはり大変重要な意味があるように思う。

そして、今作を過去2作と比べると、明らかに違ってきてるのが、コンピューター、シンセサイザーの打ち込みによるサウンドだ。

従って過去2作ではLAの超一流のミュージシャンの手助けを借りて作ったが、今度のアルバムはエンジニアあるいはアレンジャー、ドラム・プログラマーといった人達と少人数でこつこつ作りあげた、というニュアンスが強い。過去2作の、フル・オーケストラを使うことも辞さないという徹底したミュージシャン・アルバムと比べると今作は完全に対照的なエンジニアのアルバムになっている。

そして、サウンド面では何よりもその強烈なビートが特長で、このような割れるようなビートは『スリラー』にもなかった。しかも、どこをとっても完全なデジタル感覚になっている。『スリラー』をアナログの最高傑作と呼ぶならば、マイケルは今作でデジタルの最高傑作を作ろうとしたのである。
A-1の「BAD」、さらに劇的な効果音の入るA-3「スピード・デーモン」、『キャプテンEO』からの「アナザー・パート・オプ・ミ一」、当初アルバム・タイトルになる予定だった「スムーズ・クリミナル」などいずれも強烈なドラム・ビートがこれでもかこれでもかと押し寄せてきて、聞くものを圧倒する。

『スリラー』以降デジタルがかなり浸透してきたが、音楽界はまだどのようなデジタル・サウンドが理想的なものか、デジタルにフィットするタイプの音楽はどのようなものか、そうしたものを求めて試行錯誤している最中だが、この『BAD』のアルバムはデジタルにおける音楽のあり方を、極端に言えばデジタル音楽の音楽的方向性を強く示唆するアルバムになっている。『スリラー』が1982年から今まで音楽界に大きな影響を与えたようにこの『BAD』もこれから5年間大きな影響を音楽界に与えることになるだろう。
もうひとつ言えることはビジュアルの点だ。

マイケル自身、前作『スリラー』が爆発的に売れ史上最大のベスト・セラーになった理由を充分理解しているはずだ。それは言うまでもなくビデオ、ビジュアルであり、今作でもビデオ、ビジュアルについては細心の計画が練られているはずである。つまり、どの曲に対してどのようなビデオを作るか、そしてどのように露出していくか、といった戦略だ。

そして、それを考えると、アルバムにおける作品がどれも何らかのビジュアル的なイメージを持ちながらレコーディングされたのではないか、と思わされる。

「スピード・デーモン」の抜けるような劇的なサウンド構成は一体何を意味するのか。イントロの効果音は何を示しているのか。ダイアナ・ロスの事を歌った(?)「ダーティ・ダイアナ」のロック・サウンドと重いビートはどのようなビジュアル・イメージがつけられるのか。既にマイケルの頭のなかには何らかのビジュアル・イメージが出来上がっているような気がしてくる。それを想像しながら聞くと、このアルバムは音以上にイメージの広がりが見えてくるアルバムである。

恐らく、マイケルにとってこのアルバム発表は単に「レコード盤に刻み込んだ音を聞かせてあげますよ」といっているだけに過ぎないのだろう。そして、「まだ、あなたは何も見ていませんよ(ユー・エイント・シーン・ナッシン・イエット)」とでも言いたげなのである。

従ってこのアルバムのサウンドに隠された秘密も「音と映像」が一致したとき初めてその全貌を表わすことになる。そして、現段階ではマイケルがこのアルバムにしかけた数々のマジックの正体をつかむことはできない。きっと2年後位に「ああそうだったのか」といった事がわかるのではないだろうか。

ところで、まだ「何も見ていないアルバム」だが、それでも少なくとも僕達は聞いているわけで、その「音」を考えた場合、今作で最も重要な役割を果たした人物が一人いる。それはジョン・バーンズという男である。彼はロスアンジェルスを本拠に活躍するシンセサイザー・プレイヤー、アレンジャー。

彼はこれまでにポインター・シスターズの「ソー・エキサイテッド」やライオネル・リッチーの「ダンシング・オン・ザ・シーリング」あるいはマイケルとライオネルの共作ともなった「ウイ・アー・ザ・ワールド」などでシンセサイザーを担当しており、ライオネルの最新アルバムの中の「ドント・ストップ」ではライオネルと共作としてクレジットされている、といった活躍ぶりだ。この他にも、彼のクレジットはフリオ・イグレシアス、ハーブ・アルバート、ジャネット・ジャクソンなどの作品にも出ている。

さらに、マイケルがブロデュースし彼の姉リビー・ジャクソンの歌で大ヒットした「センティピード」はジョンがギター以外の全ての楽器をブレイしている。又、ペプシのCMに使われた「ビリー・ジーン」のヴァージョンをアレンジしたのも彼である。こうして、マイケルと多くの仕事をしてきた彼は当然マイケルの信頼を得ることになり、このアルバム『BAD』でも結局8曲でシンセ等で関わる事になった。

彼によると「僕の仕事はマイケルが音楽的に求めているサウンドを現実の物とすることだった」と語る。

ジョン・バーンズとマイケルとの出会いは丁度ジャクソンズの『ヴィクトリー』のアルバムを作っている最中だった。マイケルは他の兄弟とともにジョンの仕事ぶりに感心していたという。ジョンが振り返る。「マイケルは彼の音楽的アイデアを表現出来る能力のある人物を探していたようだ。つまり、音楽のテクニカルな方面での協力者を求めていたということだ。僕はシンクラビアとフェアライトの両方を持っている数少ない人物の一人だった。ロスで僕は48チャンネルのスタジオを持っている。技術的な面と、アレンジも出来るという二つの才能が彼にとって魅力的だったのだろう」。

強烈なビート、斬新なサウンド・アイデア、デジタル感覚のサウンド。マイケルが頭に描いた物を実際に音にした男、それがジョン・バーンズである。このアルバムで彼が果たした役割も大きい。いずれにせよ、これを機に注目されるシンセサイザー/アレンジャーである。
 
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マイケルについてのコメント
 
吉岡正晴
 
今マイケル・ジャクソンが音楽界に占める位置というものはかなり計り知れないものがあるのではないだろうか。

何よりも史上最大のアルバムを売った男である。何故それだけの物を売ることが出来たか、といえば歌がいい、ルックスがいい、そしてダンスがうまい等の総合的なビジュアル/オーディオの両者を又に掛けたスーパースターになったからである。彼が恐らく60年代に出てきても、あるいは70年代に出てきても(もっとも70年代に一時代は築いたが)今ほどのインパクトを音楽界には与えなかった。つまり彼はもっとも80年代的な真のスーパースターなのである。60年代はいい曲があってそれをうまく歌えれば何でも誰でもヒットした。70年代はそうしたいい曲をアーティスト自身が書けないとスーパースターになれなかった。そして80年代はいい曲を書け、そしてうまく歌いさらに見ても楽しめるという強烈なビジュアルの魅力がないと真のスーパースターになれなくなったのである。そして、マイケル・ジャクソンはそうした正に時代の申し子的な存在といえる。
 
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『BAD』前後の主なタイムライン
 
1987年
7月27日 全米でI Just Can’t Stop Loving You 発売
(8月5日 このパンフ用原稿提出)
8月31日 全世界でアルバム『BAD』発売
 日本でこのパンフレット発行
 ショートフィルムBAD(マーティン・スコセッジー監督)全米で公開
9月7日 シングルBAD発売
10月31日 The Way You Make Me Feel ショートフィルム公開
11月9日 シングルThe Way You Make Me Feel 発売

1988年
2月6日 シングルMan In The Mirror発売
3月2日 グラミー賞(ニューヨーク)でThe Way You Make Me Feel と Man In The Mirrorをライヴ・パフォーマンス。
3月3日~5日、ニューヨーク・マジソン・スクエア・ガーデンでコンサート
4月14日 Dirty Diana ビデオ、MTVでプレミア放映
4月18日 シングルDirty Diana 発売
7月11日 シングルAnother Part Of Me発売
7月30日 Another Part Of Me ビデオ、プレミア公開
10月13日 ショートフィルム Smooth Criminal MTVでプレミア公開
11月14日 シングル Smooth Criminal発売

1989年
1月 MTVでLeave Me Alone ビデオ・プレミア公開
2月13日 シングルLeave Me Alone 発売
4月 ショートフィルムLiberian Girl 撮影
7月3日 シングル Liberian Girl イギリスのみで発売
 
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これをSNSに投稿したところ、担当の清水さんが、「私が若気の至りでサイズ大きく作り過ぎたために、保存の際に皆様に何かとご迷惑をかけてしまった印刷物ですね(^_^;)」とコメントしてくれた。続けて「吉岡さんの文章は、時系列的に考えると予言的な内容ですね、それもかなり正確な。改めてその節は本当にお世話になりましたm(_ _)m」とも。
 
当時これをどれくらい印刷したか覚えているか尋ねたところ、「正確には覚えてないが、1000は刷った。地方局を含む全音楽メディアに配布したのでは…。う〜ん、あんまり使用目的とか覚えてないということは、たぶん私が作りたかっただけかもしれない(笑)」とのこと。
 
それにしても、36年前の原稿、印刷物。久しぶりに再会できて嬉しい。
 
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ところで、この『BAD』が出る時に、絶対に『スリラー』を超えることなんて、できないという雰囲気があったので、僕は『BAD』が『スリラー』を超えられる部分についての予言的(希望的)原稿をどこかに書いた記憶がある。それは、『スリラー』より『BAD』のほうがより多くのシングルヒットが生まれ、しかも、ナンバーワンヒットが生まれるのではないかという展望を書いたはずだが、その原稿をこのブックレットに書いたと思っていたら、読んだら違っていた。あれはどこに書いたんだろう。
 
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『スリラー』のライナーノーツをてがけた湯川れい子さんは、マイケルについての5人の評論家の原稿の中で、「マイケル・ジャクソンは、音楽界のウォルト・ディズニーであり、スピルバーグであり、チャーリー・チャップリンであると思っている」と書かれている。もう、さすがです。

https://www.youtube.com/watch?v=Sd4SJVsTulc

https://www.youtube.com/watch?v=HzZ_urpj4As

 


https://www.youtube.com/watch?v=8vwHQNQ88cM




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