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■■アーカイヴ・シリーズ27■■ ジョー・サンプル誕生日トリビュート特集~ジョーがリクエストに応えてくれた

〇 ジョー・サンプル誕生日トリビュート特集~ジョーがリクエストに応えてくれた

【Groove Hand, Poet Hand: Magic Hand Of Joe Sample (Part 1)】

本記事は有料設定ですが、最後まで無料で読めます。読後、お気に召せば「記事を購入する(今回は300円)」、あるいは、「サポートをする」(金額は自由に設定可)なども可能です。クレジットカード払いか、携帯電話支払いがお選びいただけます。アカウントを作らなくても支払い可能。アカウントを作ると、次回以降手続きが簡略化できます。

(本作・本文は約12000字。「黙読」ゆっくり1分500字、「速読」1分1000字で読むと、およそ24分から12分。いわゆる「音読」(アナウンサー1分300字)だと40分くらいの至福のひと時です。ただしリンク記事を読んだり、音源などを聴きますと、もう少しさらに長いお時間楽しめます。お楽しみください)

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〇 お誕生日おめでとうございます~ミスター・ジョー・サンプル特集

明日2月1日は、ジョー・サンプルの生きていれば82歳の誕生日(1939年誕生)。2月1日と、命日の9月12日(2014年)は、そこで、今回はジョーについて数多くのエントリーがある本ソウル・サーチン・ブログ・アーカイヴからいくつかを選んで、お送りしよう。

今日は、2005年11月にジョー・サンプルが盟友ジョージ・デュークと二人だけのピアノ・コンサートを行った。そのデュオの前に、横浜でソロ・ライヴを敢行。そのときの両方のライヴ評と、いろいろな話、そして、リクエストをしてそれを弾いてもらうことがかなったという夢のような出来事が起こったときのことをまとめたものです。当時のエントリーは4日にわたって書いていますが、ここでは1エントリーにまとめています。

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1. 【DAY ONE】

Groove Hand, Poet Hand: Magic Hand Of Joe Sample (Part 1)
Posted on 2005-11-19
https://www.soulsearchin.com/blog_archives/?p=1419

【ピアノの魔術師、ジョー・サンプル完全ソロライヴ】

旅先案内人。

なんとイマジネーションを広げてくれるパフォーマーだろうか。たったひとりでステージに置かれたグランドピアノに向かい、たった2本の腕と10本の指で88の鍵盤を操り、200人ほどの聴衆の心をわしづかみにする。そのピアノの音色に身を委ねれば、世界中のどこにでも、いつの時代にでも瞬時に連れて行ってくれる。それはあたかも、このピアニストがすばらしき旅先案内人の如くだ。

ピアノの魔術師、ジョー・サンプルの完全なソロ・コンサート。2年程前にやはりここモーション・ブルーでソロ・ライヴを見たが、それ以来。バンドではなく、完全なソロというのは、緊張感もあり、しかも、自由度が圧倒的に高いために、ひじょうにおもしろい。アーティストの調子によって、出来不出来が如実に表れたり、セットリストが決まっていない分、思いもかけない曲が弾かれたりすることもある。まさにこの日のこの瞬間しか存在しない真の一期一会だ。85分間のパフォーマンスは、この空間に来た人だけの経験だ。そして、その経験をどのように評価するか、どれほど価値あるものと思えるかは、参加してその演奏を聴いた本人次第ということになる。

1曲終えるとタオルで額の汗を拭い、力強く、そして、さらに強烈なタッチで鍵盤を打つかと思えば、ぐっと引いてゆるいタッチで触れる。こんな緩急を付けられるピアニストを他に知らない。

ジョー・サンプル ものくろアー写


ミスター・サンプルは何曲かに解説をつけて、プレイする。例えばこうだ。「ジョージ・ガーシュインが7歳の時、親に連れられてニューヨークのハーレムに行ってそこでプレイしているピアニストたちを見ていた。そして、彼はその(黒人の)ピアニストたちを見て、曲を書こうと思った。彼らには、リズム(感)があったのだ。自分もそういうリズムが欲しいと思った。そして、彼はそのものずばりの曲を書いたのだ。『アイヴ・ガット・リズム』」

「ジョージ・ガーシュインが7歳頃というと、ちょうど第一次世界大戦の頃だろう。1912年ころかな、ハーレムではいわゆる『ストライド・ピアノ』という奏法が大流行だった。その達人がジェームス・T・ジョンソンという人物だ。では、みなさんを1918年のハーレムにお連れすることにしよう」 こうして演奏されたのが、「キャロライナ・シャウト」。

「その昔、ピアニストがもっとも好きな音楽はブルーズだった。酒場で酒を飲めないことがあった。隠れて飲まなければならなかった。そんな酒場ではピアニストは、ブルーズ・ピアノを静かに弾かなければならなかった。おまわりがやってくるからね。ピアノも静かに、話もひそひそ話でね。だから、今夜私もピアノをそっと弾くことにする。『アフター・アワーズ』という曲です」

それは、ジョー・サンプル教授のピアノの歴史のレッスン。時間軸と地域の軸が縦横に行き来して、我々を未知の世界にいざなう。

セカンドセットでひときわ驚いたのは、ジョーとレイラがレコーディングした傑作『ソング・リヴズ・オン』からの「ホエン・ユア・ライフ・ワズ・ロウ」だった。これはオリジナルであり、レイラの名唱で決定的になったヴォーカルソングだ。他の誰もが知ってるスタンダードとはちょっと意味が違う。あれだけ強烈な歌の印象を持っていた曲だが、ジョーのたったひとりのソロピアノで、この曲が持つ世界が創られた。

もうひとつは、ファーストでもやったジョーの18番「メロディーズ・オブ・ラヴ」。最初の2-3の音でそれとわかったが、ファーストとはまったく違ったアレンジで、まるで別の曲のようだった。ここまで違う「メロディーズ・オブ・ラヴ」をあっさり弾けてしまうなんて。おそれいった。

それにしても、アップテンポの時のグルーヴ感といったらない。そして、バラードの時のメロディアスな魅力。ジョー・サンプルの左手はグルーヴを生む手。そして、右手は詩を語る手。グルーヴ・ハンド、ポエット・ハンド、それらはマジック・ハンド。

(ジョー・サンプルについては続きます)

(ジョー・サンプルは、日曜=11月20日=から一週間、ジョージ・デュークとともにピアノ・デュオ・ライヴを東京ブルーノートで行います)

Setlist (2nd)

show started 21:35

01. Paper Moon
02. Sweet Lorraine
03. Spellbound
04. I Got Rhythm
05. Embraceable You
06. Carolina Shout
07. All God’s Children
08. When Your Life Is Low
09. Shreveport Stomp
10. After Hours
11. Caravan
12. It’s A Sin To Tell A Lie
13. Melodies Of Love
14. How Ya Gonna Keep ‘Em Down On The Farm? (Theme Of 369)
Enc.1. Ain’t Misbehavin’
Enc.2. Jitterbug Waltz
show ended 23.00

■ジョー・サンプル関連記事

2004/08/29 (Sun)
Crusaders In Misty
https://www.soulsearchin.com/entertainment/music/live/diary20040829.html

2004/05/07 (Fri)
Joe Sample Solo Live
ニューオーリンズ。
https://www.soulsearchin.com/entertainment/music/live/diary20040507.html

2004/05/05 (Wed)
Once In A Life Time Melody: Joe Sample Live At Blue Note
一期一会。
https://www.soulsearchin.com/entertainment/music/live/diary20040505.html

ジョー・サンプル・ライヴ 「引き算のピアノ」 2003年12月
Joe Sample: Abstract Subtraction
https://www.soulsearchin.com/soul-diary/archive/200312/diary20031211.html

クルセイダーズ・ライヴ 「ウォーリッツァーの初体験」 2003年10月
What Did 40 Year Old Wurlitzer See In Tokyo?
https://www.soulsearchin.com/soul-diary/archive/200310/diary20031009.html

ジョー・サンプル・ライヴ 「宇宙のように大きな背中」 2002年4月
https://www.soulsearchin.com/entertainment/music/live/joe20020409.html

ジョー・サンプル&レイラ・ハザウエイ・ライヴ 「魔術師の指」 1999年6月
https://www.soulsearchin.com/entertainment/music/live/sample19990608.html

ブルーノートウェッブ
http://www.bluenote.co.jp/art/20051120.html

(2005年11月18日金曜、横浜モーションブルー=ジョー・サンプル・ライヴ)

ENT>MUSIC>LIVE>Sample, Joe


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2.【DAY TWO】

The Master Of Improvisation; Like Raindrops & Clouds : Joe Sample (Part 2)~
Posted on 2005-11-20
https://www.soulsearchin.com/blog_archives/?p=1420

The Master Of Improvisation; Like Raindrops & Clouds : Joe Sample (Part 2)~
【インプロヴィゼーションの達人、ジョー・サンプル~雨粒や雲の如く~】

雨粒。

赤レンガに近づくと、通常はモーション・ブルーでのバンドの音が漏れてくる。誰が何をやっているかまでは、判断できないが、音がでているのがわかる。ところが、この日はいくら建物に近づいても、音は漏れてこなかった。港の静けさと石畳が印象的だ。ひょっとしてライヴ、まだやってないのか。


ジョーサンプル レンガ倉庫 外観

3階に上がり、入口のトンネルを進んでも、横のバーで流れているBGMは聴こえてきたが、中の演奏は聞こえなかった。そして、おもむろに重い扉を開けると、やっと、ピアノの演奏が聴こえてきた。すでにファーストセットが始まってしばらく経っていた。全体的に、ピアノからの直接の音も聴こえてくるほど、音量が小さい。これなら、外に音が漏れるはずもない。

ジョー・サンプル モーション入口

軽快なリズムの曲を演奏した後、スコット・ジョプリンが作曲した「ジ・エンタテイナー」を演奏した。ジョーの解説によると1900年代初期にジョプリンが書いたということだが、1973年、ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード主演の映画『スティング』のテーマ曲として大ヒットし有名になっている。

ピアノのタッチが違う。普通のホテルのバーなどで聞かれるラウンジピアノとは、まったく違い、クラス(品格)、格調がある。オリジナル曲以外のスタンダード曲の解釈がまたユニークだ。それは、その曲の理解度が圧倒的に高いからに他ならない。カヴァーする曲を知り尽くして、あたかも自分の曲のように消化して、それを輩出するから、オリジナリティーのあるカヴァーが生まれる。たとえ、自分のオリジナルであっても、時代とともに、その解釈を変えてしまう。

ファーストとセカンド、両方で「メロディーズ・オブ・ラヴ」と「アイヴ・ガット・リズム」を演奏した。しかし、どちらのヴァージョンもファースト、セカンドで微妙に違う。いや、大きく違った。アップテンポの曲で興がのってくると、彼はいつしか「う~~」とか「あ~~」とかピアノの前で声を出しながら演奏している。

ジョー・サンプル ジョージ・ガーシュイン モノクロ

「アイヴ・ガット・リズム」の後に、聞き慣れたメロディーが流れてきた。さて、~~~おおおっ、「ジョージア・オン・マイ・マインド」だ! ピアノ1本で歌もなく、彼は演奏する。彼もまたレイ・チャールズの大ファンだったが、ジョー・サンプルのまったくのソロによる「ジョージア・・・」はまた格別だった。

2セット終了後、楽屋に行った。マネージャーのポールさんに、「『メロディーズ・オブ・ラヴ』、セカンドのはファーストとまったく違いましたね」と言うと、「そうなんだ。ジョーはいつも違ったように弾く。そこがすばらしいんだよ」と答えた。「何年くらい、ジョーのマネージャーを?」 「16年かな。長いけどね。毎晩、違う彼の演奏を聴けるなんて、こんな嬉しい仕事はないよ。光栄だ。彼の演奏は、雨粒や雲みたいなもんだ。つまり、同じように見えて、どれも同じじゃないだろう。刻々と変化していく」 「おおっ、すごい。その通りだ! あなたは詩人ですね!」 「いや、僕が詩人なんじゃなくて、彼(といってジョーを指差す)が詩人なんだよ」  そう言ってにっこりした。

ジョー・サンプル 雨粒と雲1

(雨粒と雲=イメージ)

ミスター・サンプルに挨拶をして、「『メロディーズ・オブ・ラヴ』をまったく違った風に演奏されましたね!」と言うと、「(前に弾いたのを)覚えられないんだよ! (笑)」と返ってきた。「僕は、同じことを何度も繰り返すことができないんだ。すぐ飽きてしまう。ポップ・ミュージシャンは、よく同じことを毎晩毎晩繰り返しできるなあ。何年か前に、エリック・クラプトンのバンドでツアーしたことがある。そのとき、本当に毎晩同じように演奏しなければならなかった。みんなのことを感心したよ」

ジョー・サンプル メロディーズオブラヴ 楽譜

ちょうど、ワインが運ばれ、スタッフ何人かで軽く乾杯となった。毎日グラスで1、2杯ほど赤ワインを楽しむ程度だという。「いやあ、最近のジャズ・シーンっていうのは、ホーンセクションがひとつの音をえらく早弾きするだろう。(といって音真似) だが、どれもワンノート(ひとつの音、ひとつの音階)だけで、ハーモニーがない。ある時、マイケル・ブレッカーが『バババババッ~』(と少しメロディーをつけて、口真似)とえらく早く吹き、しかも、相当数の音を息継ぎもせず吹いていた。『マイケル、息をしろよ!(笑)』って感じだ。ハーモニーがないとメロディーがでてこない。僕自身はメロディーが好きなんだ」 徐々に、ジョーが饒舌になってきた。

(ジョーの話、続く)

(ジョー・サンプルは、日曜=11月20日=から一週間、ジョージ・デュークとともにピアノ・デュオ・ライヴを東京ブルーノートで行います)

1st set: Setlist(incomplete)

00. ??
00. Shreveport Stomp
00. The Entertainer
00. One On One
00. I Got Rhythm
00. Georgia On My Mind
00. Melodies Of Love
Enc.1. Jitterbug Waltz
Enc.2. How Ya Gonna Keep ‘Em Down On The Farm? (Theme Of 369)
show ended 19:51

(2005年11月18日金曜、横浜モーションブルー=ジョー・サンプル・ライヴ)

ENT>MUSIC>LIVE>Sample, Joe


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3.【DAY THREE】

Could You Do Me A Favor? Will You Play "Stardust" For Me? : Joe Sample (Part 3)
Posted on 2005-11-21
https://www.soulsearchin.com/blog_archives/?p=1421

Could You Do Me A Favor? Will You Play "Stardust" For Me? : Joe Sample (Part 3)
Posted on 2005-11-21

【30年は演奏していない「スターダスト」】

リクエスト。

饒舌になってきたジョーはいろいろな話を始めた。本当にテープレコーダーで録音したかったほどだ。記憶にまかせてジョーの言葉に聞き耳を立ててみよう。

「最近、僕はひとりでの演奏がけっこう気に入っている。バンドとかではなくね。なぜなら、ひとりでやるほうが、圧倒的に自由度が高いからね。バンドと一緒にやっていると、ある程度方向性が制限される。だが、ひとりでやっている限り、ある瞬間は、こっち、次の瞬間になにか思いついたらそっちと、どこにでも自由自在に移動できる。そういうところが好きなんだな。ポップ・ミュージックは、同じことを繰り返すので、苦手だよ」

「ジョージ・デュークとのデュエットは、8月だったかに、ハリウッドボールでやる機会があった。リハーサルかい? ジョージと5分くらいやったよ。(笑) ショウの構成は、ふたりで2曲やって、ジョージのソロ2曲、またふたりで2曲やって、僕のソロ2曲、といった感じで進めていく」

ジョー・サンプル ジャケ写 アニタ、クリスマス

最近、聴いたアニタ・ベイカーのクリスマス・アルバム『クリスマス・ファンタジー』でのジョー・サンプルのパフォーマンスが大のお気に入りだったので、そのことを伝えた。「ああ、あのレコーディング・セッションはとてもいい経験になった。とても楽しかったよ。2日間だったかな。どれも、みんなワンテイクかツーテイクだよ」

「こんなことがあった。彼ら(プロデューサー、ソングライター、アニタたち)はその場で、曲を作るんだ。アレンジャーのバリー・イーストモンドが、彼もピアノを弾くんだが、こういう風にやってくれ、と僕に指示した。ところが、その指示通りにやると、そうじゃない、こうやってくれ、という。ところが、その指示が最初と次のでまったく違うんだな。(笑) 僕も言われたとおりにはできなくて、勝手にやってしまったりするんだけどね。まあ、何をどうするかが決まってないときには、よくあることなんだが。そのうちにドラマーのリッキー(・ロウソン)が、ドラムセットを引っくり返さんばかりに切れてね。(笑) いいかげんにしてくれ、みたいな雰囲気になったんだ。そうしたら、その瞬間から、すべての流れが変わった。そして、すごくセッションがうまく行き、とてもいい曲ができたんだよ。(註、『ファミリー・オブ・マン』か、『ムーンライト・スレイライド』のどちらかと思われる)」

ジョー・サンプル アニタ・ベイカー

(アニタ・ベイカー)

「アニタはね、自分が周りの連中からクレイジーだと思われていることを知ってるんだ。彼女も自分はこういうシンガーだという枠を無意識のうちに決めていたりするんだね。そのために、ミュージシャンたちに対して厳しいことを言ったりしたりするのかもしれない。彼女自身が考える喉の限界とか、(歌える)音域の限界とかね。ところが、いいミュージシャンとコラボレートすると、そういう一流のシンガーでも、さらに一歩壁を越えて向こう側に行けるんだよ。きっと、アニタは、このセッションでそういうことができたと思う。その点でも、このレコーディングはとてもいい経験になった」

「東京から帰ったらニューヨークに行って、グラディス・ナイトのレコーディングに参加する。その後は、LAに戻って、ランディー・クロフォードとアルバムを作るんだ。そのために曲を書いて、アレンジしないといけない。今、(ホテルの)部屋でやってるよ。ランディーには、ニーナ・シモンや、ナンシー・ウィルソン、エラ・フィッツジェラルドなんかの曲を歌ってもらおうとおもっている」

ジョー・サンプル グラディスナイト

(グラディス・ナイト)

そんな古い曲の話をしているうちに、セカンド・セットのオープニングでスタンダードの「ペーパームーン」をやった話題になった。「なんでまた『ペーパームーン』を?」 「いや、昔からなじみのある曲だから。昔の作品には、メロディーがあるだろう。僕はメロディーがある作品が好きなんだ」 そこで、僕の脳裏にひとつのアイデアが浮かんだ。

「1曲、演奏していただきたい曲が思い浮かびました。リクエストです。『スターダスト』は、演奏されますか?」 「おー、『スターダスト』・・・。昔、随分やったよ。でも、30年はプレイしてないな。(笑) 曲を正確には覚えてないよ。(といって、冒頭のメロディーをハミングする) ここは、メロディーだな、ヴァース(サビの部分)はどうだったっけ。(いろいろメロディーを試すが、なかなかサビ部分がでてこない) お~い、ポール(マネージャー)!」 「イエス・サー」 「スターダストのサビの部分はどうだった?」 「(ちょっと試すが、やはりイントロのメロディーのところ)」 「そこは、メロディーだ」 

「なるほど、じゃあ、歌詞カードがあれば、いいですか」 「いや、歌詞カードじゃなくて、レコードがないとだめだ。あるいは、楽譜」 「わかりました、では、スターダストのCDをお渡しします。明日、ホテルに持っていきますよ。フロントに預けておきましょう」 「わかった。じゃあ、もし準備する時間があったら、考えてみるよ。日曜日に来るんだね」 「はい、日曜のセカンドに」

こうして僕はうちに帰るなり、家中の「スターダスト」をひっぱりだして、一枚のCDに焼いた。こんなのは朝飯前だ。なんてったって、昨年、オッシーとともに横浜のバー、スターダストの特集番組のために、楽曲「スターダスト」ばかりを集めたCDを作ったことがあったからだ。結局、8つのヴァージョンをいれた「スターダスト」CDを作った。8つのヴァージョンは、ロッド・スチュワート、ナット・キング・コール、エロール・ガーナー、ウィリー・ネルソン、ウイントン・マルサリス、トク(TOKU)、ファッツ・ウォーラー、スティーヴ・タイレルだ。しっかり、トクのヴァージョンもいれてみた。エロールとファッツは、ジョーより先輩のピアニストだ。CD作るのは朝飯前だが、「スターダスト」8ヴァージョンを作るとほとんど夜は明け、朝飯時になっていた。そして、明けて土曜の午後、そのCDをホテルにおきにいった。

ジョー・サンプル 横浜スターダスト 外観

(横浜のバー、スターダスト)

果たして、日曜日、ミスター・サンプルは「スターダスト」をプレイしてくれるのだろうか。もし、ソロで弾くとなると、どんなになるのか? スローなのか、ミディアム調なのか。まったく想像がつかない。期待に胸を弾ませて、ブルーノートに向かった。

(ジョーの話、続きます)

ENT>MUSIC>LIVE>Sample, Joe
ENT>MUSIC>ARTIST>Sample, Joe

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4.【DAY FOUR】

A Night To Remember: Thank God For Joe Played It For Me ~ Joe Sample (Part 4)
Posted on 2005-11-22
https://www.soulsearchin.com/blog_archives/?p=1422

A Night To Remember: Thank God For Joe Played It For Me ~ Joe Sample (Part 4)
Posted on 2005-11-22

【忘れえぬ夜】

ハート&ソウル。

「ソウル・ブレンズ」が終って、青山へ直行し、整理番号をもらい、開場を待った。番号は14番。なんという番号。これだったら、どこでも好きな所へ座れそうだ。意外に、満員にはなっていなかった。会場に入るとピアノが2台右と左に少し離れて置かれていた。お店の人に、ジョー・サンプルはどちらのピアノか尋ねると、左だという。そこで左の一番前に座ろうとしたら、「あ、すいません、ジョーは右側のピアノです」と言うので、あわてて、右の一番前の席を取った。あぶないあぶない。(笑) ちょうど、彼がピアノを弾くと背中が見えるところになる。

それにしても、ふたりのピアノ・デュオというのは、どんなになるんだろう。まったく想像がつかない。

暗転してふたりがそれぞれの持ち場につく。ジョーがすぐ横を通る時、僕に気がついてくれた。いきなり、ジョー・サンプルとジョージ・デュークの演奏が始まった。どうやら、ジョーがリードして、ジョージがそれをフォローする形のように見受けられる。ジョージはずっとジョーのことを見ている。ジョーのピアノは、僕たちの席からは間近なので、アンプを通さない直接の生音が聴こえる。アップテンポの曲は、ジョーがけっこう声を出して歌っているのが聴こえる。

ふたりで演奏する曲は、楽譜を見ている。そのため、彼はめがねをかけていた。たしか、ソロの時は、楽譜を見ないので、めがねをかけていなかったと思う。最初、ジョーが演奏を始めて、まもなく、ジョージが演奏を始めたのだが、ジョーの動きと違う音がでていて、初めてジョージがかぶさっているのが、わかった。それにしても、一体どのように連係しているのだろうか。まったくわからない。すごいものだ。こんなことができるのか。溜息ものだ。同行オッシーも、「いやあ、すごいっですね」。「ほんとすごいねえ」

ふたりで2曲演奏して、ジョージ・デュークのソロへ。自分の大好きな曲だと言って「マイ・フーリッシュ・ハート」を演奏した。これを聴いて、ジョージもジョーに負けず劣らず、優しいタッチを聴かせるのだなあ、と感心した。確かにジョージのピアノは、CDなどで聴かれるが、やさしくメロディアスだ。ジョージのソロピアノというのは、バンド内で1-2曲演奏されるだけで、なかなかじっくり聴く機会はなかったが、とてもよかった。

再び、デュオ。ジョージがシュアなリズムをキープし、ジョーが物語を爪弾く。それにしても、このデュオはすごいなあ。ピアノのデュオってみんな、こんななのだろうか。ジョーもジョージも、それぞれの力を出し切っている。

ブログ ジョー・サンプル命日@ルサンプル 2

今度はジョーのソロの番だ。ちょっとだけ何かを弾いたら、突然気が変わったのか、それをやめてマイクを握った。「ちょっとまってくれ。実はひとりの人物が、先日ある曲をやってくれないか、と言ってきたんだ。その彼は僕が泊まっているホテルにCDを置いていった。『スターダスト』を覚えてくれ、と。(笑) そこで、僕はCDを聴いた。昔やっていたが、『スターダスト』はもう30年以上、やっていない。僕は、ナット・キング・コールのヴァージョンがとても気に入っている。そこで、(CDに入っていた)彼の曲を聴いて、やってみることにした。では今夜、30年ぶりに『スターダスト』をやってみよう」

やった~~~! ジョーはピアノの上に置かれている何枚かの楽譜から「スターダスト」の楽譜らしきものを取り出して、譜面台に立てかけ、それに目をやり、演奏を始めた。

「あれ、なんで楽譜があるの? なんで、楽譜が?」 一挙に疑問符が点灯した。まさか、CDから楽譜を聴き起こしたのだろうか? 明らかに、何か弾こうとした曲は、やめてこれに変えたということだ。楽譜に目をやりながら、ジョーは「『スターダスト』はものすごく音(音符)がたくさんあるんだよ」と微笑みながら不満げに言った。

あのやさしいタッチで曲が始まった。紛れもないジョー・サンプル、間違いなく「スターダスト」。とてもゆったりしたテンポだ。はっきり言って、もうとろけます。大好きなジョー・サンプル氏が大好きな「スターダスト」を演奏してくれるなんて。しかも、ソロで。夢のようだ。死んでもいい。(笑) 5分半くらいだったが、このジョー・サンプルの「スターダスト」は、決して忘れない。

もう1曲、ジョーがソロを弾き、ジョージとふたりで2曲。そのうちの1曲はトゥーツ・シールマンスの「ブルーセット」だった。今度はジョージのソロの番になり、ジョーは舞台を降りた。すると、なんと彼は僕らのテーブルの横に並んで座って、ジョージのパフォーマンスを見たのだ。グラスを少し掲げ乾杯をして、テーブルにあったフライドポテトをつまんだ。つまり、僕たちは今度はジョー・サンプルと同席して、一緒にジョージのライヴを見て、杯をかわし、ディナーを共にしたことになる。(笑) わお! 

ジョージのこのソロパートもやられた。なんとあのアップテンポの「シャイン・オン」をスローのアコースティック・ピアノ1本でやったのだ。最初僕はわからなかったが、オッシーがすぐにわかった。「シャイン・オン」のスロー・ヴァージョンは想定外だ。そして、それに続けて、「スイート・ベイビー」。ジョージがいきなり歌いだした。ここで歌が入るか! まいった。

そして、再びジョーがステージに上がり、「僕も1曲やろう」と言って、「スペルバウンド」を演奏した。ちょうど、その演奏中、オッシーが、僕のメモノートに「ブルームーン」「ラヴ・フォー・セール」「ストリート・ライフ」と書いた。何かと思ったら、ジョーの足元に置いてあるセットリストを見て、それを書いたのだ。僕なんてとても、その距離の字は読めないが、なんと言っても視力2.0のオッシーの眼力はすごい。ほ~~。読めちゃうか、あの字が。すると、順番は違ったが、この3曲が最後に演奏された! 最後の「ストリート・ライフ」は、かなりピアノ・デュオの斬新なアレンジになった。ジョージは、よくジョーの方を見ている。特に、曲の締めのところなど、お互い目で合図しながら、うまく終わりを合わせる。

夢のような90分。ありがとう、ジョージ&ジョー。きっと、ジョージとジョーにとって、同じ夜はないに違いない。毎夜、たとえ同じ曲でもまったく違ったアレンジで、別の展開で披露していることだろう。マネージャーのポールがふと漏らした言葉がいまだに心に残っている。「(ジョーが)演奏する曲は同じでも、演奏自体は、毎回違うんだよ。彼のハート&ソウル(心と魂)以外はね」 毎回違うパフォーマンスを見せるが、曲の奥底にはいつもジョーのハート&ソウルが漂っている。

(ジョー・サンプル、ジョージ・デューク・ピアノデュオ・ライヴは、今週土曜日26日まで、東京ブルーノートで行っています)

Setlist Second Set (November 20, 2005)

(註、Joe&George はジョーとジョージのデュオ。それぞれのソロは、ひとりだけで演奏。曲目後は、オリジナル作曲者とその作品が登録された年号。ヒット曲の場合は、ヒットした年)

show started 21:04

=Joe & George=

01. It Don’t Mean A Thing If It Ain’t Got That Swing (Duke Ellington: 1932, From “Sophisticated Ladies”)
02. Honeysuckle Rose (Thomas Fats Waller: 1929)

=George Solo=

03. My Foolish Heart (Victor Young: 1949)
04. Geneva (From George Duke’s album “Snapshot”: 1992)

=Joe & George=

05. Blue Trane (John Coltrane: 1977)

=Joe Solo=

06. Stardust (Hoagy Carmichael: 1929) (song requested by Masaharu Yoshioka)
07. Carolina Shout (James P. Johnson: 1922)

=Joe & George=

08. Cherokee (Ray Noble: 1939)
09. Bluesette (Toots Thielemans: 1964)

=George Solo=

10. So What (Miles Davis: 1961)
11. Shine On (George Duke: 1982)
12. Sweet Baby (George Duke: 1981)

=Joe Solo=

13. Spellbound (Joe Sample: 1989)

=Joe & George=

14. Love For Sale (Cole Porter: 1930)

Enc. Blue Moon (Richard Rodgers: 1934)
Enc. Street Life (Crusaders: 1979)

show ended 22:31

(2005年11月20日日曜、東京ブルーノート=ジョー・サンプル、ジョージ・デューク・ピアノ・デュオ・ライヴ)

ENT>MUSIC>LIVE>Sample, Joe
ENT>MUSIC>ARTIST>Sample, Joe


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