キャンディス・スプリングス・ライヴ・レポート~カヴァーとオリジナルと~父に捧げる「ラン・ユア・レイス」
キャンディス・スプリングス・ライヴ・レポート~カヴァーとオリジナルと~父に捧げる「ラン・ユア・レイス」
【Kandace Springs Live At Cotton : Song For Her Father “Run Your Race”】
ジャジー。
プリンスにラヴコールを送られたテネシー州ナッシュヴィル出身の女性シンガー・ソングライター、キャンディス・スプリングスの2023年3月以来の5回目のライヴ来日。ただし今回は、香港からのプライヴェート・パーティー(アメックスの顧客向けパーティー)の帰り道で急遽決まったライヴということで、東京ではコットンクラブで一日だけのライヴになった。木曜に来日、金曜にライヴで土曜の朝、帰国するという弾丸スケジュールだった。
今回は2016年、2017年以来久しぶりのライヴ鑑賞。松尾潔さんと見ることになった。松尾さんは当日、何かのパーティーから会場のコットンへ。ということでとてもおしゃれな装い。それぞれ別に会場に着くと、僕が入るときになんと盟友ケイリブ・ジェームスが。ドラムスのカミールがニューヨーク・クイーンズ時代からの友達でライヴに顔をだしたそうだ。
満員。
コットンは満員。これまではブルーノートなどで2、3日公演が行われていたので、1日だけだと満杯になってしまったのかもしれない。
ライヴは全体的には、ひじょうにジャジーなものになっていて、前回の印象とはかなり違った。また、観客と即興でやりとりしたり、客から出たリクエストをその場で歌ってみたり。「みなさんは2曲For All We KnowとYou’ve Changedのどちらを聴きたいか)」と観客とやりとりして後者が拍手が多くそれを歌ったり。また、途中になんとエリカ・バドゥ、マイケル・マクドナルド、ルーサー・ヴァンドロス、ノラ・ジョーンズ、ニーナ・シモーンのちょっとした物まねを入れたり、エンタテイナーとして一回りも二回りも大きくなっている感じがした。この物真似は、少しずつライヴで取り入れるようになったそうだ。彼女のあっけらかんとしたキャラクターがでていて、とてもいいと思った。
アコースティック・ピアノと、舞台正面のローズのエレクトリック・キーボード(ローズ)を頻繁に行き来し、縦横無尽にその場のノリで曲を進めていく。まさにジャズ・シンガー、アーティストだった。
2分遅れでドラム・ソロから始まり、今年(2024年)4月に出たばかりの新譜『ラン・ユア・レイス』からの1曲へ。(詳しいセットリストは下記参照) 以後、カヴァーとオリジナルは、全15曲中8曲までがカヴァー。ピアノの弾き語りという点でもロバータ・フラックの2曲は日本でもよく知られているので反応が大きかった。
プリンスのペイズリー・パークに2014年に行ったときの話から、「そうそう、プリンスもロバータ・フラックが大好きでした」という発言が飛び出したり。やはりユニークに感じられたのが、ピアノを縦横無尽にプレイするために、クラシックの有名曲を曲のイントロにいれたりしたところ。「トルコ行進曲」やショパンの「幻想即興曲」、ベートーヴェンなどのフレーズをいれたりする。ジャズ、ソウル、R&B、そしてクラシックなどの要素も存分に取り入れ、料理する。
個人的にとても印象に残ったのは、9曲目の「デヴィル・メイ・ケア」。古い曲のように思えたので調べたら、ボブ・ドローというアーティストが1950年代に出したものだった。とても気に入った。また客席に「ニーナ・シモーン、好きな人はいる?」と尋ねながら、彼女の持ち歌でもあった「アイ・プット・ア・スペル・オン・ユー」をちょっとブルージーに聞かせたり、最後のアンコールでは「私のカラオケ・ソングを歌います」と言って、エタ・ジェームス、最近ではビヨンセでもおなじみの「アット・ラスト」を堂々披露したりした。松尾氏いわく「これは、オープン・マイクの定番!」とのこと。
曲によって、ベース・ソロ、ドラムス・ソロも振り、そのあたりは、完全にジャズ・マナーだ。
父に捧げる一曲。
最新作『ラン・ユア・レイス』のタイトル曲を歌うときには、この曲についてのちょっとした解説をした。それによるとこうだ。
「次の曲はわたしにとっては特別な曲です。私の父(ケネス・スプリングス)が2021年に亡くなって、以来毎日、父のことを思っているのですが、彼は私にとって最大のインスピレーションでした。彼は素晴らしいアスリートであり、シンガーであり、大変おもしろいコメディアンでもありました。父は私にピアノや歌を教えてくれました。彼は最後までそのレースを走っていました。彼は(大学時代陸上の選手でもあり)バスケット・ボールのコーチでもありました。でも晩年は体に痛みがあったようで、それを見るのは辛かった。あなたの身近にも、病気と闘っている人はいるかもしれません。病を克服してもう一度人生という競争に参加できる人もいるかもしれません。父はもう自由です。父へ捧げる『ラン・ユア・レイス』(自由にあなたのレイスを走って)です」
父は1960年生まれというので、61歳か60歳での逝去だ。なんと若いこと。
このビデオでもわかるように、キャンディスのお父さんはブラック、そしてお母さんは白人だ。3人姉妹の名前はすべてKから始まる。
Run Your Race : written and sung by Kandace Spring
(一部)
I can feel your smile
I can feel your laugh
I can feel the joy
You have left for miles
I could feel your pain
You don’t need to explain
‘Cause you’re free again
So fly away
And run your race
One day I’ll see your face again
At the finish line
You’ll be standing there smiling
Once again, again, again, again
Again, again, again
(略)
歌詞カード
https://www.boomplay.com/lyrics/149090569
Run For Race 父の姿もでてくるビデオ
本編が終わり、アンコールにトリオが戻ってくると、客席から「ブレイクダウン」の声がかかった。すると、キャンディスは「ちょっと待って、やってみようかしら」と言って、ピアノを弾きながら「あなたの名前は?」「ヒロシ」「これはあなたのために」といってワンフレーズほど歌った。このあたり、アドリブが効く自由度の高いアーティストだ。
この日歌った曲のセットリストに沿ってユーチューブ動画をまとめてみた。
ライヴ後、キャンディスとプロデューサーのカールなどに再会したので、そのあたりの話は後日に続く。
■セットリスト/ユーチューブ
We’ll Find A Way
Soul Eyes, 1 Mic 1 Take
Talk To Me
Kandace Springs Closer To Me
Live Living Room
Pulse
You’ve Changed
Killing Me Softly With His Song
The First Time I Ever Saw Your Face
Devil May Care (featuring Christian McBride)
Nearness Of You
Run For Race (オーケストラとともに)
People Make The World Go Round
I Put A Spell On You
Enc. Breakdown (Don’t You Break Down On Me) [request from audience named Hiroshi]
Enc. At Last
~~~
■セットリスト Setlist : Kandace Springs, 10/11/2024 @ Cotton Club, Marunouchi
(1) Denotes the album she recorded on アルバムの(1)(2)などは、下記のCDリストの番号に対応
[ ] denotes original artist when its cover songs
Show started 20:32
00. Drum Solo
01. We’ll Find A Way (6)
02. Soul Eyes (2)
03. Talk To Me (2)
04. Closer To Me (6)
05. Pulse (6) (including impersonate of Erykah Badu, Michael MacDonald, Luther Vandross, Norah Jones, Nina Simone)
06. You’ve Changed [1941, Harry James & His Orchestra, Billie Holiday on “Lady In Satin]
07. Killing Me Softly With His Song (4) [1971 Lori Lieberman, 1973 Roberta Flack]
08. The First Time I Ever Saw Your Face (3) [1957 Ewan MacColl, Peggy Seeger, Roberta Flack recorded 1969, hit in 1972)
09. (a riff of Mozart’s ALLA TURCA from Sonata No. 11 in A major, K.331 トルコ行進曲) ~ Devil May Care (4) [1956 Bob Dorough]
10. Nearness Of You (4) [1937 Hoagy Carmichael]
11. Run For Race (6)
12. People Make The World Go Round (3) [1972 Stylistics]
13. (a riff of Chopin’s Fantaisie – Impromptu (Op.66) 幻想即興曲 ? ? a riff of Beethoven’s Moonlight Sonata~- I Put A Spell On You (4) [1956 Screamin’ Jay Hawkins, Nina Simone, CCR]
Enc. Breakdown [request from audience named Hiroshi] (3)
Enc. At Last [1960 Etta James]
Show ended 21:49
~~~
Members
Kandace Springs, Piano, Keyboards, Vocal キャンディス・スプリングス
Liany Mateo, Bass リアニー・マテーオ
Camille Gainer Jones, Drums キャミル・ゲイナー・ジョーンズ
~~~~~
CD LIST
EPs
1) Kandace Springs (Blue Note, 2014)
Albums
2) Soul Eyes (Blue Note, 2016/6/24)
3) Indigo (Blue Note, 2018)
4) The Women Who Raised Me (Blue Note, 2020)
5) My Name Is Sheba (Subplay Creative, 2022/1/7)
6) Run Your Race (2024/4/5, SPR Records)
Amazon
indigo
The Women Who Raised Me
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■来日履歴
プロモーション
2016年5月
2016年6月
2018年9月
2020年1月
ライヴ来日
① 2016年9月8日~10日 ブルーノート東京
② 2017年3月13日~15日 ブルーノート東京
③ 2018年11月27日 東京国際フォーラム
11月28日 大阪サンケイホール
④ 2020年5月予定17日名古屋ブルーノ―ト、18日~20日ブルーノート東京→コロナのため延期→2023年3月21日ブルーノート・プレイス、3月22日、23日 東京ブルーノートに延期
⑤ 2024年10月11日 コットンクラブ丸の内
(このキャンディス・スプリングスについては、続く)
ENT>LIVE>Springs, Kandace
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