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がんゲノム:KRASの役割と治療薬

がんゲノム診療でしばしば見られる、KRAS変異。

この変異はどのような腫瘍で見られ、どのような薬が使えるのか、について書きました。とくにG12Cのことを書いてます。
実際にがんゲノムのエキスパートパネルに参加して、このKRASの変異の割合についても、だいたいの感覚として書いてます。
絵はAIが勝手に書いた絵です。

KRAS概要


がんゲノム診療においてしばしば認めるのが、KRASの変異、とくにKRAS G12C, G12Dなどであろう。ヒトゲノム計画の(とりあえずの)完了後、がん領域の遺伝子研究は急速に進展した。代表的なものとして、APCやTP53と並んで、このRas(KRAS)の発見が挙げられる。特にKRASの発見によって、細胞の増殖におけるキナーゼの役割が発見され、カウンターパートとしてのフォスファターゼの発見にもつながった。キナーゼとは特定の相手タンパク質をリン酸化する役割を持ち、リン酸化したそのタンパク質は機能が活性化される。これらシグナルの連なり、「カスケード」を形成する。KRASはそのシグナルの連なり、「カスケード」の上流に位置する。

KRASの働きは、GTPという分子がくっつく(正確にはもともとあったGDPと交換する)ことで始まり、GTPがGDPという分子になると終わる。その調節はKRASの周りにいる別のタンパク質が担っている。


KRAS G12Cとは

KRASの12番目のアミノ酸であるグリシンを変更させる遺伝子変異がしばしば見られ、G12CとかG12Dなどと記載される。この部位の変異はKRASを活性化させているGTPをGDPへ加水分解できなくさせている。結果、KRASとGTPがずっと活性化してしまうことになり、細胞の増殖シグナルが常に「ON」になった状態となる。これが、KRAS G12Cによるがんの仕組みである。

ソトラシブやアダグラシブはこのG12C、KRASの中にあるスイッチIIポケットと呼ばれる場所のシステインと共有結合することで、活性化させているGTPの分解を促す、というメカニズムである。

一方、これらの薬に抵抗性を示すがんも見られている。こちらは後日。

Liu J. The KRAS-G12C inhibitor:activity and resistance. Cancer gene Therapy 2021 29 875-878

診療の中のKRAS変異

印象として、KRAS G12の変異は約15%くらいであろうか。ただそのうち G12Cの割合は小さく、一番多いのがG12D、次に多いのがG12Vという印象である。

KRASの治験


「ソトラシブ」+「治験」で調べると、以下の治験が出てくる。
KRAS p.G12C変異を有する進行固形癌患者を対象としたソトラシブ単独投与及び他の抗悪性腫瘍薬との併用投与における安全性、忍容性、薬物動態及び有効性を評価する第Ib/II相試験(CodeBreaK 101)
こちらはJRCTで募集中(2023年5月20確認)


Kirstenラット肉腫(KRAS)p.G12C変異を有する既治療の転移性結腸直腸癌患者を対象としてソトラシブ及びパニツムマブの併用投与を治験担当医師の選択する薬剤(トリフルリジン・チピラシル、又はレゴラフェニブ)と比較する第III相、多施設共同、ランダム化、非盲検、実薬対照試験
こちら↓はすでに募集を終了している。

アダグラシブについてはJRCTに登録された治験・臨床研究はなし


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