穴があったら入りたい・5
深夜の夜行バス。
難波のOCATから横浜までの道程だ。
ボストンバックのなかには、
ストッキング、ハイヒール、
例のワンピースとガードルが入っている。
よし、完璧だ。
私は、鞄の取手を強く握った。
夜行バス初体験という状況も手伝って、
私の運転手のおじさんへの眼差しも自然と熱くなる。
「おじさん、頼んます」
☆彡
いつの間にか寝てしまっていたらしく、目覚めたら朝だった。
「次は横浜です」
と、アナウンスが流れていた。
関東に土地勘がなかった私にとって、
横浜という言葉にまったくピンと来ず、
最初、聞き流してしまった。
乗客が降りるはずの駅で降りていなかったり、寝過ごしたりしていないか
確認するためなのか、停車する場所に着くころになると
2、3回停車駅のアナウンスが流れるようだ。
私は、2回目の「横浜」というアナウンスで、
やっと自分は次に降りるのだ、と自覚することができた。
バスから降りた私が直行したのは、商業ビルのような建物だ。
ビルの窓に映る自分の顔面からは疲労感しか伝わってこない。
こんな顔では、Yくんはおろか関東人にも馬鹿にされてしまうのではないか、
そんな恐怖を抱いた私の本能が、
「とにかく地下に身を隠せ!」
と叫んでいた。
地下のトイレに潜りこんだ。
大きな鏡を前に最終調整に入る。
体に余計な力が入っていた。
ビューラーで思いっきりまぶたを挟んでしまい叫びそうになる。
Yくんと会うまでまだ時間はある。焦るな。
それまでに、どこかのカフェにでも入って周囲を観察するべきだ。
横浜の雰囲気をつかんで、余裕をぶっこけ私!
孫子も言っているではないか、まずは敵のことを徹底的に知れ!
と。ま、横浜もYくんも敵ではないのだが……。