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コロナ総括❾なぜPCR検査は増やせなかったのか


「感染者隠し」という陰謀論


 日本のPCR検査数はなかなか増えず、検査数不足が騒がれ続けた。この状況に対して、政府の陰謀論が渦巻くことになる。

「なぜ、日本は希望者全員にPCR検査をやらないのか(中略)国は感染者数を低く抑えたい、実態を隠したい意図でもあるのではないか」(玉川徹氏、4月3日、モーニングショー)
「皆さんお気づきでしょうが、東京オリンピックの延期がほぼ正式に発表された直後から、すべて始まったのです(中略)で、延期が決まった瞬間、何でもかんでも発表して、まぁ感染者の数字なんてねぇどうでもコントロールできますから。最後が合えばいいんですから」(久米宏、「久米宏ラジオなんですけど」、3月28日)

「東京五輪の実現のために感染者の数を少なく見せ、東京はコロナを抑えている如く厳しい要請を避けて来られたが、延期と決まった直後にこのパフォーマンスだ」(鳩山由紀夫、同氏のツイッター、3月25日)

 こうした話は、国内だけにとどまらず、中国の財新、英国BBC、在日アメリカ大使館などまでもがPCR検査不足に対して懐疑的な情報を流している。
 対して、加藤厚労大臣は国会において度重なる対応を説明している。また、田村憲久対策本部長も多数、テレビに出演し、状況改善を訴えてきた。にもかかわらず、PCR検査数がなかなか増えなかった状況を、この章では詳しく図解することにする。
 その前に、概略について書いておきたい。見出しと同じ番号の図を合わせて読んでいただけるとより、理解が深まるのでぜひ、お勧めする。

① そもそもなぜPCR検査数が絞られたのか


 日本は21世紀になって世界的に大流行したウイルス性感染症、SARSの国内感染者が出なかったために、対応するインフラへの投資が少ないままだった。その結果、2009年の新型インフルエンザ流行時に、対応で行き詰まりが発生する。少ない医療資源をいかにうまく配分するかという戦術として、重症者優先という方針が作られた。その後、2012年に今度はMERSが世界的に流行するが、この時も日本は災厄を免れた。そのため、やはり、ウイルス性感染症に対応する医療インフラが整わないまま今日まで来てしまうことになる。
 そうした状態で、今回のCOVID19の流行が発生したために、09年当時の新型インフルエンザ対策(=重症優先)が順守されることになった。

② PCR検査数絞り込み要件緩和の誤解


 こうした方針がマスコミで批判を受け、国会でも追及されることになり、政府は入り口での絞り込みを緩和していく。2月17日には、かなり広く対応するように指針を出しているのだが、このときに誤解が錯綜(ルビ さくそう)した。「37・5度以上の熱が4日以上続く」というセンターへの相談目安以外に、
「風邪の症状が4日以上続く」
「強いだるさや息苦しさ」
 のいずれかが該当すれば検査対象となる、という大きな緩和だった。
 しかしそれが、「すべて該当する場合」と誤解を呼ぶ。また、高齢者・基礎疾患がある患者等は、「4日以上」ではなく「2日以上」に変更していたが、これが見落とされがちだった。
 こうした「見落とし」「誤解」「誤認」が生じたため、3月22日の各自治体衛生主幹への通知では、改めて、これらの点を指摘し、注意を促している。それでもまだ、医師・相談センター(保険所)で誤解が消えないため、5月8日には、「37.5度」「4日」というワードを削除して再通知を出した。
 つまり、2月17日段階で大幅緩和したものが、その通りにならずにずっときた、ということだ。
 そのため、加藤厚労大臣は5月8日、記者会見で「37・5度以上の発熱が4日続く」という条件について、「目安ということが、相談とか、あるいは受診の一つの基準のように(とらえられた)。我々から見れば誤解でありますけれど……」と発言した。 
 国会発言や厚労省の連絡などを詳細に振り返ると加藤大臣の話が正しいのだが、誤解という言葉に野党からクレームがつき、その後、安倍首相が「周知徹底不足だった」と陳謝することになる。
 ちなみに、加藤発言に対して、前出の玉川氏は出演したモーニングショーの中で「この内閣は間違いを認めない内閣」(5月11日)と喝破しているが、それまでの経緯を振り返れば、こくな言葉といえるだろう。

③ 検査フロー上のボトルネック


 続いて実務上の流れの問題を取り上げておく。
 まず、PCR検査は全国に約1000カ所ある「帰国者・接触者外来」で行われる。
 ただし、その場所は非公開であり、そこにじかに患者が赴くことはできなかった。
 その理由は、やはり09年の新型インフルエンザ流行時に負の教訓があったからだ。
 このときは政府が設置した「発熱外来」に軽症患者が殺到し、オーバーフローが起きた。それを防止するために、今回は「一次窓口」として保健所が相談を受ける「帰国者・接触者相談センター」を開設したのだ。
 が、今度はこちらがパンクしてしまった。
 保健所は過去30年で4割以上も数を減らしたなかで、今回はコロナ対策のための積極的疫学調査なども担当している。
 この状況では人手不足は明らかだった。
 続いて、帰国者・接触者外来でもオーバーフローが起きる。
 院内感染対策を施しながら検体採取をすると1人1時間もかかるためだ。しかも、防護服やマスク不足も起きた。
 そのため医師会は、「設備の整った医療機関(帰国者・接触者外来)に紹介」すべきという方針を打ち出す。結果、検体採取の「たらいまわし」が起きてしまう。
 さらに、採取した検体は特殊包装と冷凍保存などが必要となり、運搬業者が限られたため、ここでもオーバーフローが起きる。
 最後に、測定・検査を担当する地方衛生研究所は、従来、行政検査(濃厚接触者の追跡など)が主体なため、大量の新規感染者に対応する体制が整っていない。
 ようするにフロー上のいたるところにボトルネックがあり、対応に追われたのだ。

④ ボトルネック対策の錯誤


 帰国者・接触者外来での検体採取というボトルネックを解消するためには、同様の行為を行えるPCR外来(仮称)を設置すること、そして、測定・検査のボトルネックには、これを民間機関でも行えるようにすることが必要だった。
 ところが、PCR外来は予算不足で設置がされず、結果、帰国者・接触者外来のボトルネックは消えないままとなる。
 そこで、検査数を絞るために、相変わらず保健所を通して、入り口で検査数を絞るというフローが残る。
 こうして数が絞られるから、測定・検査件数は伸びず、だから、民間機関への委託も増えない。委託が増えないならば、民間もわざわざ設備投資して対応を行わなくなる。こうした負の連鎖が起き続けたのだ。
 見かねた各地の医師会が、PCRドライブスルーセンターを立ち上げるが、前述の通り、入り口で保健所を通すフローが残っていたため、ここでの検体採取も当初なかなか増えなかった。
 最終的に、保健所通しが不要となり、5月以降、ようやくボトルネックの解消が進む。

陰謀論者は都合のいいときだけ陰謀論を語る

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