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コロナ総括❿PCR検査不足と「隠れコロナ」騒動

どの国でも陽性判明者の10倍以上、感染者はいる


 PCR真理教たちは、日本では検査数が少ないから感染者の判明も少ないだけで、隠れた感染者数は非常に多く、「万単位はいるだろうと思う」(岡田晴恵、サタデーステーション、2月22日)などと、国内陽性者が100名あまりの時点から発言していた。
 ただ、こうした推論に対しては、
「ではなぜ、オーバーシュートが起きないのだ」
「死亡者が増えないこともおかしい」
 という反論がすぐになされる。それに対して、PCR真理教たちは、
「すでにオーバーシュートは起きているが、それも検査不足でわからない」
「死亡者も多数出ているが、一般的な肺炎やインフルエンザの死者にカウントされているため、わからないだけだ」
 という再反論をしている。
 これは、前出の玉川徹氏だけでなく、上昌広氏(医療ガバナンス研究所理事長)や渋谷健司氏などその道のプロたちも論じていた。
 こうしたことから、日本に陽性判明者よりもはるかに多い感染者が潜んでいるという話が3月ごろから半ば常識のように語られていた。
 その疑念が国会でも追及されることになる。
 5月10日の参議院予算委員会にて、立憲民主党の福山哲郎幹事長が、専門家会議の尾身茂副座長に対して「感染者は報告数の10倍程度」いるのかいないのかと詰問したのだ。
 ここまでの一連の流れは、正直、PCR真理教たちが自分に都合の良い流れを作っただけの話だと種明かしをしておきたい。
 なぜなら、PCR検査を拡充しようがしまいが、陽性判明者の数倍~数十倍の潜在感染者はどこの国でもいるからだ。
 当たり前に起きていることに対して、「日本はひどい、PCR検査数が少ないからだ」といういちゃもんをつけていただけといえよう。
下記図表を見てほしい。
 これは、過去にCOVID19にかかったことがあるかどうかを調べる抗体検査結果を一覧表にしたものだ。
 この検査自体の信頼性については若干の問題があるので、そのことは最後に付すが、まずは結果から考察することにする。

 図表から明らかになるのは、この検査で示された抗体保有率(どのくらいの人がすでにCOVID19にかかったかを示す)は、どの国でも感染判明率(PCR検査で判明した陽性者の全人口に占める割合)よりも大幅に大きな数値となっている。
 おおよそ10倍前後の国が多く、なかにはロンドンのように40倍になる地域さえある。
 この疾病の臨床的特徴を考えれば、それはごく当たりまえのことだ。
 まず、感染しても無症状の人がかなり多数存在する。ダイヤモンド・プリンセス号の全乗員・乗組員調査からみると、約半数が無症状だ(その後、無症状者の6割以上が発症をしているが)。
 彼らは基本的に潜伏したままだろう。また、発症者のうちの8割が軽症で1週間以内に回復してしまう。
 彼らの多くも、病院に行かないか、行ってもPCR検査をしないですませてしまうはずだ。
 こうした人たちがいるから、どこの国でも、PCR検査での陽性判明者よりもはるかに多い潜伏感染者がいることになる。
 だから、「10倍」程度いても当たり前のことであり、厚生労働省クラスター対策班の西浦委員(8割おじさん)も、(北海道の理論疫学調査の結果、推定患者数は)「だいたい確定患者の10倍程度」「現在も10倍がそのまま適用できるか。むしろ、それより大きい可能性があると考えている。
 少なくとも10倍を超える感染者がいると認識はしている」(2020年4月24日)と逃げも隠れもせず、単に、当たり前のこととして語っている。

抗体検査の信頼性は高くないが
日本の数値は他国より一桁小さいという事実


「抗体検査」について、補足しておく。
 この検査に使う簡易キットにはさまざまな製品があり、精度にもかなり差があるので、信頼性に欠けるきらいがあるといわれる。
 精度には、「陽性の人を正しく陽性と判定する」=感度と、「陰性の人を正しく陰性と判定する」=特異度の二つがある。
 後発品に関しては、かなり精度が高まり、感度100パーセント、特異度99.8パーセントという製品も普通に世に出されている。
 ただ、こうした高精度キットでも、日本のように感染率が低い国では大きな幻惑を生むことがある。
 とりわけ、ここで注目しなければならないのは、特異度のほうだ。99・8パーセントという数字が示すのは、1000件陰性者を判定すると、間違って2件、陽性と出てしまうという意味だ。
 前図表でわかる通り、日本の抗体検査結果は、どの地域でも1000名当たりほんの数名しか抗体保持者が出ていない。
 この程度の数字だと、ひょっとすると、まるまる全数が「間違い」の可能性すらあるということだ。
 この図表中5月15日に行われた日本の検査は、献血で集めた血液を対象にしている。
 こちらでは、比較対象として昨年の献血分に対しても同じ抗体検査をしているのだが、まだCOVID19が発生していない段階の血液でも抗体保有率が0・4パーセントもあったという。
 つまり、抗体検査とは正確性を示すものではなく、傾向値を把握する程度に利用するものだとお断りした上で、各国の数字を比較しておく。
 日本の抗体保有率は0・03パーセント~0・6パーセントであり、他国と比べて1ケタ、場合によっては2ケタも小さな数字だ。このことからも、日本は感染が広がっていなかったということがわかるだろう。

本当に市中感染が多ければ
陽性判明率が高止まりしたはずだ


 こうした抗体検査の結果をまたずとも、日本の感染者数が少ないことは真実だと推測できるデータはあった。
 それが、PCR検査の陽性判明率だ。
 この数字は、検査数を絞り、強くCOVID19の罹患症状が出ている人を対象にしていくと、(可能性の少ない人は排除されるため)どんどん数字が上がっていく。
 ブラジルや一部アフリカ諸国のように感染爆発を起こしているのにPCR検査数が追いつかない場合は、陽性判明率が30パーセントを超える。 


 この数字を4月末時点でと比べた場合、イギリス26・9パーセント、フランス19・3パーセント、スペイン19・2パーセント、アメリカ17・4パーセント、イタリア10・6パーセント、ドイツ6パーセントに対して日本は5・8パーセントと相当低くなっている。

3月からの推移データで見ても日本の陽性率はだいたいの時期で10パーセント以下に収まり、WHOが推奨する3~12パーセントのレンジにとどまり続けた。そうした意味でも「絞りすぎで危ない」というシグナルがほぼ見られない。
 公平性を期すために、各都道府県別の局地データまで見ておくと、確かに、東京と大阪では3月下旬から4月下旬にかけて20パーセントを超える日が複数記録されてはいる。
 この時期の両都市(とりわけ東京)は絞りすぎ問題があった可能性は残るが、それとて限定的なものだ。
 こうした兆候さえも表れていない2月22日段階(陽性判明者は120名!)で、「万単位はいるだろう」と、実数の数百倍の予想を語っていた岡田氏の罪は重い。

「37・5度以上が4日続く」間に
他の検査をしておく想定


 ちなみに、悪評ふんぷんだったPCR検査相談の目安「37・5度以上の熱が4日以上続く」という条件は、医療効率的には合理的だったということも示しておきたい。
 COVID19は、先行して蔓延した武漢の調査から、以下のような臨床的特徴が発表されていた。
① 発症から7日以内に8割が軽症のまま回復。
② 発症から呼吸困難までが5日程度。
③ 発症から入院までが7日程度。
④ 発症からARDS(急性呼吸不全)まで8日程度。
⑤ ARDSからECMO(人工心肺)装着まで2日程度(1~6日)。

 つまり4日間の経過観察があると、多くの軽症者はこの時点で快方に向かうため、医療リソースの提供が不要となる。
 一方、重症に進む患者においても、まだ呼吸困難症状が訪れていない段階であり、入院開始(発症7日後)までにも余裕がある。
 4日間の経過観察期間中には、他の疾病にかかっていないかの以下の検査を行うことも推奨されている。


 インフルエンザ検査、白血球検査、咽頭培養、喀痰(かくたん)培養などを施すことで、COVID19以外の疾病をきちんと見つけ出していくのだ。
 現実問題として、インフルエンザや細菌性感染症のほうがはるかに感染確率が高いのだから、このフローは非常に合理的だろう。
 ちなみに、モーニングショーの常連コメンテーターでPCR真理教の一門と目される大谷義夫氏が、「新型コロナウイルスに罹患したのではないか」と訴える肺炎患者に対して、自クリニックにて、このフローに準じて検査を行い、2月26日の同番組で放映していた。
 患者の心配とは裏腹に、ものの見事に「細菌性肺炎」と判明して終わっている。
 こんな感じで、ようするに「コロナではないか」と心配で騒ぐ人は数多いが、4日間の経過観察により、その多くが非コロナに落ち着いていったのだろう。
 ただ、ここでも一部医師の間で、「4日間は治療・検査を一切せず自宅待機させろ」という誤解が生じており、それに対しても政府は注意喚起を行っている。
 ちなみに、日本医師会は、医師がコロナウイルスの疑いがあると診断したにもかかわらず、PCR検査が受けられなかった事例を、各自治体の医師会を通じて集めている。
 3月3日時点でその数30件、3月13日時点では290件。26都道府県でそうした事例が見受けられ(21県ではなし)、多い順に大阪47件、東京36件、兵庫27件、埼玉20件、熊本15件ということだった。
 医師の診断所見が無視されたというのは、もってのほかの話だ。290件とはいえ、この数字は捨て置けない。全体から見れば多くはないかもしれないが、こうしたことが起きないよう、保健所側への指示の徹底、そしてPCR検査キャパの5~10倍への拡充は必要ないことだと私も考えている


PCR真理教の理論支柱、上昌広氏の「超過死亡」論


 こうした日本型対策の批判論者の中でもひときわ目を引くのが、上昌広氏だ。
 専門家の立場から、一貫して「日本には感染者が蔓延している、政府はそれを隠している」という説を繰り広げてきた。
「検査してないから数字が少ないだけ。コロナウイルスはかなりの確率でパンデミックを起こす。グローバル化で封じ込めは無理」(日刊IWJガイド、2月16日)
「昨日も診療していたが原因不明の風邪の患者さんがたくさん来られ、ほぼすべからく自分がかかっているのではないかと不安に思っておられる」(2月18日、野党「新型コロナウイルス合同対策本部会議」)
「感染が爆発的に広がっている可能性が高い。日本で感染者が100万人を超えることもありえます」(女性自身、2月24日)
 上氏は「実は感染者はもっとたくさんいると思いますよ。厚生労働省がやりたくない理由があるんだと思います。たくさんやると何か不都合があるのか…」(新・情報7daysニュースキャスター2月29日)
「100万人を超える」などの発言は滑稽にも見えるが、専門家の意見ということでテレビ上氏は、「日本にすでにコロナ患者が蔓延していて、死亡者は他の病気にまぎれて見逃されている」という説でも専門的な見地からいくつかの発表を行っている。
その中核にあるのが「超過死亡」というキーワードだ。これは「平時の死亡数よりも、何らかの要因により、死亡者が多くなっている」ことを指す。
感染研では毎年12月~3月の間、インフルエンザの流行により、超過死亡が起きていないかを、統計数理推計により、発表している。下図が今冬のそれとなるが、見方は簡単だ。


平時の予想死亡者数が緑色のベースライン。統計的にありうる変動の許容値がピンクの閾値となる。これに実際の死亡者を紺色の折れ線でプロットしている。紺色の死亡者数が閾値を超えている場合、ここに何かしらの原因があって「超過死亡」が発生していると考えられる。
※感染研では「インフルエンザ・肺炎死亡」がどの程度増加したかを示す推計値と説明している。ただ、COVID9は病状が両者に酷似するために、この2病の超過死亡理由となりうるという推論が上氏の説と解釈をしている。
感染爆発は2、3月に起きていた?
緊急事態宣言は無駄だった?
上氏はこの図を用いて、以下のように説明している。
「東京においては、昨年末、さらに今年に入り第8、9週で超過死亡を確認している。(中略)超過死亡が存在するということは、何らかの感染症の流行がなければ、死亡者の増加は説明できないことを意味する。(中略)今年の1月半ばよりインフルエンザの流行は勢いを失い、2月以降は昨年の4分の1以下だ。ところが、8、9週には超過死亡が確認され、例年以上に多くの方が亡くなっている。2月と言えば、4日には、タイ保健省が、1月下旬に日本に旅行した夫婦が新型コロナウイルスに感染していたと報告した時期だ」(PCR躊躇しまくった日本がこの先に抱える難題、東洋経済オンライン、4月28日)
つまり、インフルエンザが減少期に入っているのだから、原因はそれではない。とすると、インフルエンザと同様な病状であるCOVID19の感染による死亡が誤認され、それが上乗せされた分、超過死亡が発生したと考えられる、ということだ。
そして、14週目以降に実際の死者数が激減することについて、以下のように語る。
「日本では3月24日に東京オリンピックの延期が決まり、それ以降、PCR検査数が増加する。それに伴い患者数が増える。4月7日に緊急事態宣言が発出されるが、3月29日~4月4日の週には超過死亡は消滅している。国立感染症研究所は、それ以降の超過死亡についてのデータを公表していないが、ここまではPCR検査数が示す感染者数の動向とまったく異なる」(新型コロナの「第二波」はどう乗り越えるか 抗体検査と超過死亡が示す現実、Fobes、5月12日)
「今年2月、3月の東京都の超過死亡は例年より1週間当たり50〜60人多く、4月第1週から減っている」(倉重篤郎のニュース最前線、サンデー毎日、5月21日)
趣旨を再度書いておくと
3月24日まではオリンピックの延期問題があるから、PCR検査を増やせなかった(感染者数を多く見せたくないから)。
その後は、PCR検査を徐々に増やした。それによりCOVID19陽性判明者が増えたため、死因はインフルエンザや肺炎からCOVID19となり、超過死亡数が減少していった
ということだ。

ならなぜ日本は感染収束できたのか?
どちらに転んでも理解しがたい


この上氏の話は、素人的に考えても合点がいかないことが多い。
まず、超過死亡が確認された2020年8週目は、2月下旬に当たる。この当時、COVID19の死亡者がお説通り「超過死亡者」として東京に50~60名いたとしよう。死亡率や死亡までの経過日数から逆算すると、東京だけで2月中旬には1週当たり1000名程度の「隠れ」感染者が発生していたことになる。この点については、上氏も以下のように同じ推測をしている。」
「実は感染ピークが韓国、台湾同様2、3月に来ていながらそれに気づいていなかった可能性がある」(倉重篤郎のニュース最前線、サンデー毎日、5月21日号)
2月の中旬といえば、欧米はもちろん、日本でもまだ何ら対策はとられていない。休校措置も自粛も、JリーグやNPBのオープン戦中止もなされず、3密もソーシャルディスタンスもほんとに、まるでなしの状態だ。
週間当たりの感染者数が1000名を超えた状態で、2週間も何ら対策なく放置されていたらどうなるか?ニューヨークやイタリア、フランス、スペイン、ドイツで起きた以上のオーバーシュートが起こっても不思議はないだろう。
上氏の話にしたがえば、東京において「週間1000名の隠れ新規感染者」が発生する状態が、以後3月末まで6週間も続くことになる。
ならば、なぜ東京はこうしたオーバーシュートが起きなかったのか?
氏は自身のツイッターで以下のようにもつぶやいている。
「都内の超過死亡が2、3月でピークに達していて、4月頭には劇的に低下していることは重要です。感染研がやるべきは二週目以降のデータを開示すること。もし、この傾向が確認されれば、緊急事態宣言は不要であった可能性があります。重要な問題なので、議論が必要です」(5月5日)
感染研のデータは季節性インフルエンザの超過死亡を推定するシステムなので、前述の通り3月末までしかデータを用意していない。このあたりはまあ、どうでもよいが、それよりも氏にどうしても聞きたいことがある。
2月末~3月の危ない状況からなぜ、東京はピークアウトができたのか。それは、上氏が批判し続けた「日本型の対策」が素晴らしかったのか?
上氏の一連の推論は、正しかろうが間違っていようが、いずれにしても理解に苦しむところだ。

毎年起きてきた季節変動を
五輪陰謀論に結び付ける

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