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出せなかった手紙

拝啓 森崎洋二様

キャビール砂漠の上空で、「いま、死んでもいい」と思った。
心からの望みを生きられる幸せに、涙が止まらなかった。
旅するように表現したい。そんなふうに生きてみたいと切に願った。

"Life is a journey through realms of the seen and the unseen."
人生は、見えるものと見えないものの旅。


お元気ですか。

ふとお便りしたくなり、筆を執りました。まとまりのない話ですが、宜しければお読みください。


先の旅では、イラン・ドバイ・トルクメニスタンに行きました。予定外のイラン出国に続き、トルクメニスタンは当日搭乗できるかわからなかったり、フライト遅延で帰国便に乗れなかったりと、波乱に満ちていました。そんなことがありながらも、とても素晴らしい旅でした。

久しぶりにカメラを手にして、動画もたくさん撮りました。山麓のヤギのベルの音、バスの車窓から、ダルワザのガス・クレーターで・・「私にしかできない表現は何か?」をひたすら感じ、考えて、最も心が動くものをじっと観察して。

カメラを握っていると、あなたの写真を思い出します。あの美しい世界はどうやって生まれていくのだろう?私はわたしのうつくしさを、どうやったら表現できるのだろう?ファインダーを覗きながら、文章に向き合いながら、しばしばそのことが頭をよぎりました。

旅行後、写真の整理をしたり文章を書いたりしながら、自分の世界のうつくしさに気づきました。

旅行の前から「トルクメニスタンに行ったら表現が大きく変わりそうだ」という感覚がありました。この旅を通じて、「自由に自分を表現する許可」を得たのかもしれません。

そうして自分の中にあたらしい「わたし」を見つけたのかもしれません。「ああ、これを表現すればいいんだ」「ここに繋がって切り出していくんだ」というようなものを。

旅行の前と後で、180度在り方が変わったように感じます。「自分は普通じゃない」ということを、フラットに受け入れられたことが大きいのかもしれません。驚かれるかもしれませんが、私は自分が「普通じゃない」ことをずっと認めたくなかったのです。

ここまで書いて、私はこの手紙で「自分の写真表現とは何か」、追い続けていることを伝えたかったのかもしれないと思いました。なぜかと聞かれてもわからないけれど。

もう一年以上、お話していないですね。折に触れて、聞きたいこと話したいことは本当にたくさんありました。きっとこれからもあるでしょう。けれど、この手紙を邪推しないでいただけたら幸いです。ただなんとなく伝えたくなった。深い意図のない、そういう手紙です。もし本当にご縁があるならば、お互いの準備ができたと感じた時、自ずと言葉が生まれ、渡したくなるものではないでしょうか。この手紙もまた、そういう類のものなのかもしれません。

私はひとり自問自答しながら、より純度が高い透明な世界、胸が打ち震える表現を探していきます。自分の内なる世界に向き合い続けてみます。

それでは、また。


※この作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。


★旅行記「さいはて」


イランの岩砂漠で遊牧民に導かれて氷河に出会う癒しの記録。



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物販業を起業した坂口は、ビジネスがうまく行っていない。 仕入れのセンスはあるけれど、いつも卸先に手痛い目に遭わされる。 資金繰りも悪化し、借入金の返済期限を過ぎて、ローン会社から督促を受ける日々。 全てに詰まっている坂口に、風呂場の排水口が詰まるというつまらない出来事が起きる。 修理のために電話して、なぜか繋がった「天国給排水設備株式会社」という妙な会社。 担当者の治国(じごく)社長もかなりの変わり者。 なのに、坂口はだんだんと社長に惹き込まれていく。 治国社長は坂口に「あなたの頭のパイプも詰まっているから掃除する」と告げられる。 頭のパイプ掃除を終えた社長は、頭のパイプを詰まらせず、綺麗なまま維持するために、「自虐するな」「感謝を増やせ」と謎めいた助言を残して帰っていった。 経営が行き詰まっていた坂口は、藁をもすがる気持ちで、治国社長の助言を実践していく。 坂口の人生が、流れ始める。
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