読書感想:希望が死んだ夜に (文春文庫)
同級生ののぞみが殺害された容疑で捕まった同級生·ネガの動機を調べる事になった刑事達はその背景の社会の闇に気付く物語。
深夜に起きた首吊り自殺。
捕まった少女に動機を聞いても黙秘を貫くのみで、その不可解さが解決の糸口となる。
そこにあったのは中学生を働かされる圧倒的貧困。しかし、アフリカなどの飢餓や苦しみがある訳では無い。
不幸を比べる事自体が歪だ。
当事者にしか分からないそれぞれの地獄がある。
貧困の連鎖。格差。
言葉だけが取り上げられ盛んに議論される中で、当事者たちは取り残されていく現状。
溺れ苦しんでいる人の気持ちは一緒に溺れないと分からない。
周りは助けようと救助船を出そうとするだけで決して飛び込んでは来ない。
国の宝とされる子供達が身勝手な大人のせいで窮屈な生活を強いられるという事。
親や大人の言動に傷つき口をつぐむ子供達に、2人の刑事は自身の経験に思いを重ねて、想像力を最大限に働かせ優しく寄り添う。
しかし、それでも自分達が置かれた立場にもがきながら、真っすぐに生きていこうとした矢先、やるせない現実に希望が断ち切られてしまった。
もう当たり前の明日はやってこない。
まさに希望が死んだ夜に。
人が人を殺めてしまう理由。
人が自分で命を断とうと思う理由。
それは自分自身の事というよりも、大切な誰かを想う気持ちや、どうしようもない境遇が産み出す魔物なのかもしれない。
貧困はどんなに真面目に生きようとも自力では抜け出せない蟻地獄のような状況に陥る。
決して自業自得とは言い切れない。
ましてやそんな親の元に生まれた子ども達には何も非は無いはずなのに。
親や周りの大人の見栄やエゴに囲まれて、でもなんとか生きようとする子どもたちの純粋な部分があまりにも哀しい。
守れなかった心と命。遺された者の心の行き場所とは?
今の現状では何処にもないだろう。
一生その傷と痛みを背負って生きていくしかない。
子供の貧困、生活保護、福祉という現在の日本が抱える社会問題。
持つ者と持たざる者の格差が一方的に広がるこの国で、真っ暗な絶望の中でも、のぞみとネガは懸命に生きた。
通じ合っていたはずの二人が何故このような結末を迎えねばならぬのか?
社会の闇にこれ以上、未来ある子供達が理不尽に傷付けられぬように。
我々、大人達に出来る事を少しずつ考えねばなるまい。
信頼出来る大人に搾取される子供達の痛みを想像するしか救いは無い。