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紙の月

⭐️あらすじ⭐️
バブル崩壊後、専業主婦から銀行の契約社員になった梨香は、真面目な性格と細やかな気配りから、周囲の信頼を集めていた。梨香の業務は高齢の顧客に向けて金融商品を販売したり、預金を預かったりすること。
大口顧客を前任から引き継いだ梨香は、前任が特に苦戦していたという平林の自宅を訪ね、国債を売る。そこで、平林の孫で大学生の光太と顔を合わせ、後日、彼と駅で偶然再会したことをきっかけに、2人は男女の関係となっていくのであった。
ある日、梨香はいつものように平林の家を訪ね、営業活動をしていると「光太には借金がある」という情報を耳にする。
光太に問いただすと、学費を支払うことができず闇金から借金をしているとのこと。孫の学費を出さず、周囲に悪態をつく平林に憤りを覚えた梨香は、平林から預かった200万円を横領し、光太に渡してしまう。
これをきっかけに、横領することに抵抗感を覚えなくなった梨香は、湯水のように顧客の金を使って光太に貢いでいくのであった。

⭐️レビュー⭐️
光太との燃えるような禁じられた恋に翻弄される梨香と、大人しい真面目な銀行員としての梨香。この2つの顔を宮沢りえさんが、上手く演じ分けていて、思わず世界観にどっぷり浸かってしまう作品でした。
この作品でキーワードとして使われていた「ニセモノ」という言葉。

光太との愛はニセモノ。いつか必ず終わるとわかっているから。
お金はニセモノ。本当はただの紙だから。
月はニセモノ。太陽に照らされることで初めて空に存在できる星だから。

この「ニセモノ」の意味は、「本質的に価値を持たない」という意味が込められていると思います。本当は価値がないのに、価値があるように思い込んでいるから、いつか自分の意図せず突然そこから消えるかもしれない。
梨香は、光太との恋もいつか必ず終わってしまうと悟っていたから、めーいっぱい幸せになろうとこれまでの自分を破壊するようにお金を使ってしまいます。

ニセモノの愛とわかっていながら、それに夢中になる梨香ですが、外回りをしている際に通販で買った偽物のネックレスを喜んで身につけている老人に言われた言葉に、はっとする場面がありました。

「ニセモノでいいのよ。いいじゃない。綺麗なんだから」

この言葉は、その今目の前にあるものが、本物であろうとなかろうと自分がそれによって幸せになっているならそれでいいじゃないか、という意味で発せられた言葉でしょう。何によって幸せになっているかよりも、今幸せであることが大事なんだ。

幸せになることは、いつかそれが終わり、自分が傷ついてしまうのではないかという恐怖や、それによって他人から白い目で見られ事態が生じるのではないかといった不安が潜んでいると思います。だから欲求のまま生きることは、簡単にできることではありません。

そして、ニセモノで幸せになろうとしていても、本当に自分を満たしてくれる幸せは見つかりません。梨香が考えていたように、ニセモノは不安定な存在でいつか消えるかもしれないからです。これは、終盤の隅のセリフで表現されていました。

「確かにお金はニセモノ。ただの紙切れだから。でもだから、お金じゃ自由になれない。あなたが行けるのはここまで」

本質的に価値を持たないお金が人間にできることは、快楽の機会を与えるのみ。それをどう意味づけ、どう人生の1ページに組み込み、その人なりの幸せを形作っていくかは本人次第。お金をたくさんもっているからといって、本当の意味で幸せになれるわけではないのです。

現代の資本主義社会では、どうしてもお金を持っている方が権威があって幸せに見えますが、人間がお金というただの紙切れに翻弄されるように、結局私たちは、社会が与えた意味づけに苦しんでいるだけなんじゃないかと思います。

この物語は、お金と月というメタファーを用いて、人間の寂しさや物事の儚さを綺麗に描いた作品でした!気になる方はぜひチェックしてみてください!

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