屠殺ラブスト2-21

(あと10分か)

オーブンを確認して、ふぅ、スマホを片手にベッドを背もたれにして気持ちだけ寝転がって、座った。

昨日。悪夢……悪夢のような男性すぎる、岸川なんとかさん……。

それで、どんぐりのクッキーには、はしゃぎたおして。
うちに押しかける前と人物が違う気がする。さっきの視線は、前のしーさんだった。

(……こうなるつもりなかった。しーさんだって、ああいう目で私を見てて、家畜の目をしてる割りには私を見る目が解体現場のこっち側だった)

しーさんがいつから豹変していたやら。わからない。今は、好意をもたれてる、それはわかる……。

「ん」

しーさんから、メール。
スマホを置いてきたとかぬかすので、連絡はメールアドレス。しーさんのタブレットで取得したやつ。

ふぅー、ため息しつつ。
なんでこうなってるかなぁ、疑問を噛みしめつつ、メールアドレスをひらいて。画像の添付あり。画像か。

しーさん、よくわからない。虫が野草から出てきた、とか、干してる、とか、いっそ無邪気かっていう、他愛もない写真を送ってくることが多かった。

「……」

ポン、と押した。自宅Wi-Fiだから躊躇いなくダウンロードできる。

……、……………………、……、…………。

死んだ。死ぬ。やっぱり邪神の心しかないのでは。

倒れているうちに、しーさんが風呂場から出てきて無邪気に満面の笑顔を向けてきた。おい。こいつ。

「沙耶ちゃん、きゃーっ、て! キャーって沙耶ちゃんも悲鳴をあげられんだね! どお? 昨日よりもわかり易いでしょ」

「う、うぅ……!!」

「それもしかして演技?」

「なわけあるか……っ、あ、あほー! なんぞなんですか真っ向から刺し殺せって私を殺人犯に仕立てようとでもしてんですか!?」

「はは。バカって言うまい沙耶ちゃんシリーズ。いや勃ってる状態じゃないと解らないよなって昨日寝る前から思ってて。おまけのサプライズかな、あと越権の違法禁止犯罪をこの家でやったらどうなんのかなって試してみたくなってさ、今」

「息をする邪悪かなんかですか!? ちかん、エアドロップちかん!!」

「メール痴漢な。で、どうなるの?」

「いつか正当防衛で刺しますよ!! 足の指とかを!?」

「刺されてもほんとに平気だけど、俺。自分で言うのもなんだけど。今さら刃傷に怯むってなるわけないだろ。沙耶ちゃんにできること、それだけ? あー、はは、弱い」

「無敵か……、っ無敵の化け物のヒモ!」

「あ。強いて言うなら沙耶ちゃんにヒモヒモって連呼されるのちょっと悲しいかな? この家でできること、がんばるよ」

「ヒモぉー!!」

床にうずくまって血の気が引いたまんま叫んでいるうちに、オーブンが焼き上がりを知らせた。いや最悪のタイミング。いや最悪なのは焼き上がったどんぐりじゃない、しーさんだった。




END.

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