びみつの海の花園
微熱と媚熱をあわせもつ、人魚の唾液。ぬるくて優しいキスを人魚姫とすると、相手はたちまち、人魚の虜になって骨までとろかされる。実のところ、この唾液には本当に溶解成分があり、唾液で岩に穴を開けたり唾液で魚を骨だけにすることもできた。
ただ、キスをするときには、溶解の分泌を控えめにする。
これからお楽しみをするからだ。
だだ、そのためだけに。
人魚姫は相手をとろかす、蕩かす、快楽の媚熱に夢中にさせる。その後で骨にまで分解するか、次もまた会うか、決めるのだ。
最高の快楽とともに、最後の審判であった。生きるか死ぬかの境界線であった。
人魚は境界の生きもの、ゆえに寿命もなく老いも育ちもしない。この世にあってこの世あらざる生き物、それが彼女たち。
ただ、死なずに済んだ者達は、人魚姫の虜になって永遠に彼女との再会をまちつづけるという。そうして生涯を終える者まで。
境界線に手を出して体を重ねるとは、そうした行為でもあるのだった。
この世ならざる生きる宝石姫、それが、人魚たちである。
海藻や、貝殻のような、中身の意思すらもよくわからない、美しき禁忌なる海の宝。
END.
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