屠殺ラブスト2-27
「口頭では、むずかしい……ので、見てもらいます」
しーさんは、始終、顔をハテナにさせている。
隔離部屋の奥から出した、服が入れてある、黒いシートが吊り下がっているハンガー。
置いておけず、でもどうにもできず。しまったきりにしてあったもの。金具をおろして中身を白日のもとにひろげる。
土曜日の夜。私がためらったから、遅くなった。
しーさんは私を待った。床にあぐらして座って、お風呂も終えてスウェット姿。私もそう。それで、こんな夜。外はもう、白くない。
本当の白日には、やっぱりまだ、晒せないみたい。
「…………」
「私の、中学生のときの制服です」
「…………。………ん、ン」
ハンガーを、壁際のシェルフにかける。普段は私の通勤バッグとか。だけれど、今日は床にどかしておいた。
ん、ん、しーさん、困惑をしている。目をまん丸にさせて珍しいお顔。それが、でも、目の中身は。
虹彩をぐにゃりと曲げて。
信じがたそうに汗を見せていて。
ひどく、焦っているように、見受けられた。
眉を八の字にして、狼狽もあらわに。ひどく低い声音。しーさんのこんな反応は、初めて見るから、少し意外にもなる。
それと。怒ってもらえるみたいで、まちがいなく私、安堵も覚えてる。
しーさんは、たずねる。
「おかしすぎない…………?」
「ですね」
「……いくらなんでも。え。ええ? ……沙耶ちゃんイメクラの村から上京した娘??」
「そんな村があってたまりますか。……ふ」
でも、……あながち間違いとも言い切れない。私の場合なら。思わず笑うとしーさんがますます顔色を失った。灰色の瞳までも正体を失って中身が震えている、戦慄に。
軽蔑ではなくて。よかった、なんて。私にも流されている部分はあって、しーさんに絆されているのかもしれなかった。
(こんな女だったのに)
「ちょっと待って。本気で、それ、どういうこと??」
END.
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