仕事始めと密林の恐怖とマヨイビト
仕事始め! はりきって家を出たものの、マヨは今や密林に迷い込んでいた。
密林といってもリアルではない。
通販だ。amazonである。
マヨのひとり暮らしは年末からスタートした。まだ足りない家電が山ほど。そして家電は今すぐ欲しい。
出社しながら、取引相手に挨拶と発注メールをしたためながら、マヨはamazonに迷い込んでいるままに特選タイムセールに追われていた。迷路はあちこち、横穴もあれば落とし穴もある。発注を取り付けながら密林のマヨは注文を取り消して特選タイムセールに乗り換える。amazonの奥地はまさに迷路だ。
あけましておめでとー。
今年もよろしくー。
昼休みになって同僚たちが気楽、あるいは疲れた正月明けの顔色をしている。マヨはまだ密林だ。通販戦争だ。レビューを見て、レビューサイトを見て、Twitterでもチェックして、迷い道に抜け穴さがしに奔走する。帰りの電車でもマヨはまだ密林の奥深くに居た。
帰宅。風呂でも密林を浴びる。
やがて、マヨは、全身が溶けていくような、不可思議、奇っ怪な恐怖心について肝を震わせた。こんなに買って大丈夫かな。オトナ買い? いやいや、いずれ必要になるものばかりでしょ!
でも、買いすぎかな?
密林。密林の恐怖がそこにある。現代の密林も夢中になって奥地まで囚われた者を、心のそこから、恐れさせるのだ。消費社会の象徴となつた密林は、しかしリアルのアマゾン奥地の密林では木々をなぎたおし延焼させて縮小させて消費させているから、どちらにせよ、密林は消費社会の象徴であった。
アマゾンの密林はいずれ無くなると言われているが、果たして、amazonは。
そしてそのとき、私は?
誰も知らない、果ての恐怖を皆どこかに抱えて。
ひとまず。
あけましておめでとうございます。今年も一年よろしくお願いいたします。
マヨは、布団入りして電気を消して、しかし頭を起こして、スマホを手にした。実家の母にラインを送った。ふと思い出したから。
故郷があった、ことを。
END.