八つ裂きレストラン(たんぺん怪談)
妖怪たちが集まるレストランは、彼らにとっては娯楽所でもある。軽口を叩くと、八つ裂きだ、丸呑みだ、なんて人間には耐えられない単語をレストランじゅうに響かせる。活け造りだ、と、シェフは今日の目標を皆に知らせた。
「死なないようぎりぎりを攻める。死なないうちに食うんだぞ」
「人間って人魚姫なのかしら」
「そんなわけあるか。不死身のカラダじゃない。なのに、生きたまま食うんだぞ」
「あら、残酷なのね」
「なにをいう。このあいだ、人間に化けて人間たちのレストランを食べ歩いてきたんだ。そこで人間たちがやってたんだよ。魚とかタコとかイカとか虫とか。いろんなものに」
「なるほどねぇ」
妖しい生き物が、感嘆をもらす。ただ単に感心だけしている、本当にただの好奇心からのため息である。
「なら、私も食べようかしら」
「お前、人間にいつまで遠慮してるんだ? どうして人間に肩入れするんだ?」
「だってカラダ半分だけだけれど、似てるんですもの。気持ちよくない食べ物だわ」
「なにをいう」
妖しいシェフが、笑った。
「人間もわたしたちも、どんな生きものだって、追いつめられれば相手を食うぞ。お前もそうだろう? 人魚姫」
「まぁ、そぉね」
人魚姫は、肩をすくめて、可愛らしく微笑んだ。今日の晩餐会でも同じ笑い方を可愛らしく愛らしくうるわしく、かたどるだろう。
END.
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