屠殺ラブスト2-29
「そんなアタヤですから、母の子どもたち、私もですけど皆どこかが違いました。父さんと母さんの子どもはなんとなくわかったんですけど。私は違ってました。……件(くだん)の兄ですけれど、この制服を私に与えた男性ですけど」
制服は、白い。
白のセーラー服。
あの男の人が好きな色、選ぶ花の色からして白だった。
「異母兄妹……のはずです」
(しーさんの空気が相変わらず冷たい)
「明言は誰にもされてません。私と兄でさえこの話題ひとつ、兄妹の会話をしたことがありません。でも当主の目と髪の色に、私とあの人だけはそっくりでした」
当主、とは、村長の家系のこと。もともとはアタヤに矢を当てた家のひとたちだ。村のなかでは当主と呼ぶ慣例がある。
私が説明をしても、しーさんはもはや相づちが無い。
「……」少し、冷や汗している。
雲行きが怪しくなってきている。
「……え。なんですか」
ぼそり、何かを聞かれる。
「なんで最後なの。他の子は」
「それは。事故です。小学生のとき、車の転落事故があって……家に残っていた私とおじいちゃんのほか、皆が亡くなりました。おじいちゃんはその後も実家でしたけど、私だけは、当主の屋敷に引き取られました。おじいちゃんはボケているから後見人になれないって、当主からの鶴の一声で……、引き取られたので、兄らしき人も、正式に私の兄になりました」
落ち着かなくて、中学校の制服をぴんと伸ばしてみる。
……いつ見ても異様。
「…………」しーさんが不快そうに眉間を寄せている。睨んでいる。制服と、あとついでにたぶん私までも。
「……それで沙耶ちゃん、ああ、アタヤ? アタヤの沙耶ちゃん、最後の一人になったから絶対に血を絶やせなくなってたって? それ現代の話なのかな」
「田舎なもので」
「1000年前の田舎か。沙耶ちゃん、……俺がこういうなんて、……さ、よほどだから。沙耶ちゃんそれさ。バカだよ」
「…………。バカですね、はい」
(言っていいんだ……)
……鹿馬さん、自分でも『バカ』となにかを呼称すること、避けているのに……。
それほど今の私の話は馬鹿げている、ということか。
それとも、シカマさんの目線からして、この制服か。
白いセーラー服。スカートは、セーラーのリボンと同じ色。
兄が私にあつらえた服のなかでも、とびきりの証だった。
あの小さな世界で全身いつでも兄の圧力下にあった証。
「……当時は、私の髪を切るのも兄で。勉強をみるのも、私の付き添う先も、制服のスカートの裾をあげたりするのも。ちいさな田舎ですから。将来の当主には皆が逆らえません。しーさんは警察も法律もなにもないって言いますけど、私も知ってますよ。私のふるさと、当主の屋敷がすべてで法律でした。ちいさな、ちいさな田舎……。今は合併して市になっているんですけど。風習は、変わらなかったですね」
制服は、上半分がぴっちりして、私でも胸が苦しいくらい。
スカートの丈は、今でもどう見たっておかしい。
こんなのパンツが見える。短すぎて変なありえない制服。セーラー服にプリーツスカートだけれど、短すぎるから、プリーツのヒダすらろくに見えない。
裸体に下着を履かせて、セーラー服を無理やり貼り付かせてる、そんな制服だった。
「兄には、どうしても、てお願いもしていて。髪だけはいつも長くさせてもらえて。私、太ももより下まで長かったんですよこのとき、髪が。兄には気に入らないことをしたら髪を一筋切られたりして、奇妙な関係でした。後ろの髪は、切られすぎると後ろ姿が危なくなるんです。ああでもですね、私のこのときの、特技、笑っちゃうんですけど。パンツが見えないように手で隠すのが上手で。どの角度からでも、見られてるとき、なんでしょうけど。なんとなくピリッとしたら太ももの付け根を手で覆うの、すごく得意で……。速くって。野生動物とか鉄壁のスカートなんて言われました」
「言いたいことが多すぎて追いつかないさっきから……」
「ですよね」
「うん、いいでもごめん沙耶ちゃんとりあえず一個だけいい。一個だけ」
「なんですか」
「ゴメンここだけどうしても確認しないと俺ちょっともう聞いてられない。頭それだけになる。もうなってる。先に進めない、ごめん話は気になってるけどそれより先に重大なことある、わかった、性的搾取、異母兄?? へぇ。髪が太ももまで。へぇ? そんな見せパン前提イメクラ制服で中学通ってた。公然わいせつ。ぜんぜんなんも何一つよくないけど理解する前に待って、待ってな。一個だけいい??」
「……はい?」
「沙耶ちゃん処女。言ってたねでも確かめたほうがいいそれ絶対ヤバイから、ヤバイやつだから。ちょっと処女膜を確認させてくれる」
「…………、……っあ゛?」
なにやら、神経がプツンときた気がした。なに。なに?
見てみたらしーさん、真顔。
真剣な顔つきで私を気遣う目つきはしてるけどなになになになに。
なんて??????
END.
読んでいただきありがとうございます。練習の励みにしてます。