お茶請けにどうぞ
「つまらんもんですけど、タカシ来るまでコレでも摘まんでどうぞぉ〜」
関西方面の訛りまじりに奥さんが言う。私は、木製のお椀に注がれているサイコロステーキ状のお菓子に視線を注いだ。ひとつまみで一粒が持てる、サラミ肉である。
青ばんでいるから、すぐ価値がわかった。
「やや、人魚肉ですか。すいません、こんなものをいただいてしまって。タカシくんには先週の報告書を渡しに来ただけなのに」
「酒飲みにでとるアイツが頭わいてますわ。すみませんねぇ、お仕事ですのにねぇ」
ポリ、と人魚肉を齧る。ジャンクなサラミ肉の味。さすが、人魚の肉であるから、動物肉と魚肉の間の子の味がした。
「やぁ、久しぶりに食べます。ニキビでも治ったら儲けものですね」
「人魚も捌かれた甲斐がありますな」
奥さんはにっこりしてのほほんと言う。人魚が乱獲されるようになって早半世紀、人類はDNA操作により擬似不老不死を獲得しているから、人魚の肉は今や美容食品として人気だった。副作用が起きない少量を、日干しなどしてザリザリと食べるのが人魚の食べ方だ。
私はニキビが気になっている額に手をやる。奥さんは、お盆を抱えて客間を後にした。
片手をやり、人魚肉の破片キューブをまた、よく噛んだ。
……最初に、こいつを美容食品で売ろうと考えたやつは、なかなかに頭がイカれている。まぁ、ニキビに効くし、薄毛や切り傷の再生なんかにも効くから、間違ってはいなかった。
今のとこのろは人魚は食べるものだけど、そのうち、人魚の塗り薬や、軟膏、目薬など、人魚たちのあらゆる体液や五臓六腑が転用法を編み出されるだろうな。まだ見ぬ明日の利用法をぼんやり考える。タカシのやつは、まだ、帰ってこない。
私のニキビが治るのが先か、タカシのやつが飲み歩きから帰宅するのが先か。
怪しい勝負だった。
END.
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