月の骨
干からびたゴボウ、薄力粉にまぶしてみました。
(素あげですか? いえ何もしません。これで完成になりま、)
す。へいぜんと皿を差し出す自分を想像して、うんざりして、にやりと口角は広がる。(これぞ創作料理の世界、食う寝るじゃなくて芸術の話ってか)苦みばしって胸を手で叩いた。これからバイトだぞ、鼓舞もする。
歩道の真正面からやってくる自転車に道は譲る。三台が数珠繋ぎになっていて笑い声を残していった。楽しそう、第一印象はそれだけれどマナーの悪さですぐ楽しさも忘れていく。胃がむかつきを最後に残した。
素あげにもされない、ひからびた骨のような、真昼の月を、いまいちど仰ぎ見る。
静謐を目でなぞる、ように。
(看病食ってむずかしい。きんぴらごぼう、大好きだからふつうに喜んでもらえるかと思っちゃった)
ゴボウをあんなに薄く伸ばしておやつにするのも大変だったのに。ゴボウを食べやすくしておやつにも、軽い気持ちで用意したのはそれはそうだったけど。
ものいわぬ骨の月は、半分を透かして、ただ空にある。
逃がすつもりで息をはいた。
(…………うん。へいき、元気わけてこ)
「こんにちはーっ。訪問看護のミツイですー!」
END.
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