消えちゃえ、メリークリスマス

まほうのことばを知った。

メリークリスマス!

こう言うと、ママは笑ってくれるし、パパも頭をナデてくれる。メリークリスマス、メリークリスマス!

それに、なんといっても明日になると、プレゼントがあるんだ。枕元にサンタクロースがやってきて良い子だった子どもにプレゼントをくれる。メリークリスマス! ありがとう、メリークリスマス!!

それに、それにね、ケーキにチキンにとってもおいしいご飯が食べられるの。
夢みたい! まほうの日! メリークリスマス!


そんな、夢を見た。
よりにもよって12月の24日に。
メリークリスマス? そんなのは虚言だ。テレビとか金持ちとかがやってるパーティの話で、自分のような、親も兄弟もない施設暮らしの人間、しかも18歳になって施設を必ず出ていかなくちゃならなくて、代わりに社会には必ずや出ていかなければならない人間には、すべてが嘘と幻だ。

脳みそに針が刺さる感覚的がした。記憶が傷む。あるはずのない、幸せな家庭の幻想が、針になって脳みそを剣山にしてしまう。

夢は起きたらすぐ忘れる。ありがたい事だ。早く、早く、泡のように消えてしまえ。

バイトに行かなくちゃ。
とても寒い。まだ午前3時、でも起きなくては。バイトがある。悪夢みたいなバイトだけど時給がいいから。この時期は。

これも夢みたいに溶けたらいいのに。
バイト。自分。この安いボロアパート。みんなの幸せなクリスマス。


さて。
起きなくては。生きてるから、まだ。

クリスマスケーキの仕上げを8時までには終わらせて、10時からは販売がある。
時給がいいから。それだけの理由だ。私の感情も気持ちも苦痛も哀しみも、夢みたいに溶けて消えちゃえ。


END.

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海老かに湯
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