屠殺ラブスト2-12

「たんぽぽ! もらっちゃいましたぁ」

ついうれしくて帰るなり在来種のたんぽぽ、ワンセットを、今の預かり……びと、に見せびらかした。

そう、久しぶり。本当。

これが、趣味だから。

さすがに……、預かっているのが人間、それも東京育ちの、まぁ曰くはともかく男性。さすがに、遠慮といえるほどには気を遣ってないつもりだけれど。でも控えて、もうずっと河原に行っていなかった。
久しぶりの草の匂いが、青臭さが、爽快感と心地よさを運んでくれた。久しぶりの気分転換!

「…………っ、?」

(おお)

やっぱり、さすがのヤクザさんも、これには体を硬直させてびっくりしている。目がまんまるになって、灰色の瞳孔、奥地に潜んでいる黒みまでもよく見える。

「ふふふ」

「!?」

「私が出かけるときには、ニヤついて余裕綽々だったのがウソみたいですね。しーさん。こっからは私も遠慮しませんよ。しーさんみたいな都会人にはついてこれない新世界、見せてあげますよ!」

「……さ、沙耶……、さやちゃん」

「たんぽぽ! これは貰いものです。貴重品です今のシーズンは! 持っててもらえますか、仕込みがたくさんあるから。私そっちやらないと」

「…………ああ…? うん…?」

くらくらしているのか、しーさんが自分のこめかみに指を当てて変な目つきをしてる。視界が急激に震えてるみたいな。耐えた、みたいな?
ゴムで結んである、たんぽぽの束を受け取って、私とたんぽぽを見比べて、それでそれきり、黙り込みかけてはいる。

たんぽぽ……。うめいてはいる。
黄色く鮮やかに花咲いた花びらを、オロオロしたふうに見下ろしたりしてる。

(ふふん)勝った、気がする。
野草なので泥だらけ。エプロンを出して背中をひも結び。髪はゴムで高く結んで、長袖は腕まくりをする。

ボウルも出して台所に並べて、それぞれに野草を投入する。スペースが足らないから床にもボウル。うちが、ボウルやらすり鉢やら、そればっかりなのは、これが理由。

しーさんは、でも、そんな解答を忘れたかのように棒立ちになってそれきり。

(? 野蛮とでも思われてるかな。やっぱり)

「あ。めずらしいですよね、秋にたんぽぽ。同じ趣味のお方がいらっしゃるんです、お知り合いになったとき私もすんごく嬉しかったです! 上京してここに住んですぐ土手でお会いした、おじさんで。昨日ラインしたらあちらも採取に出るって話になりまして。いただきものです、そのたんぽぽ! あちらは河原の向こう住みで、ハウス栽培もやってらして本格的なんですよ〜。私が差し上げられるもの、つくったクッキーとか野草とか球根のお惣菜くらいなんですけど。でもよくしてもらえてて。久しぶりって言われちゃいました。いつもは仕事帰りとか採取してから帰っているのでスーパーよりもそちらのが多いんです、私は」

「……どうぶつの森から出て来た子……?」

「新潟ですけど」



END.

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