スクラップどマーメイド
「ののん、じゃあ、こうする?」
三浦ののんはマンガが好きだ。まだちいさいから、少女まんがを毎月、1冊買ってもらっている。でもののんはマンガを読むだけじゃ足りず、マンガを読みに読んだあとはハサミを持ち出して、マンガを切るようになった。
「これはね、愛ちゃん。こっちはきらりん。ミオくん!」
嬉しそうに漫画の切り抜きを重ねてゴムで留める。その姿になにやら微笑ましくなって、母親は今度はスクラップブックを買ってきた。
「ののん、じゃあ、こうする?」
スクラップブックは、大判A4サイズで中身は真っ白なわら半紙がおさまる。コレクションのための自家製ブック。ののんは、目をきらめかせた。
教えられるままに、ちいさな手にスティックのりを持った。スティック糊は母親のアレンジがしてあって、すでにラッピング用紙が巻いてあって、まるでこれは魔法のマジカルペンだった。
ぺた。ぺたぺた、ぺたぺたぺた。スクラップブックに切り抜かれたコマが貼られる。ののんが、きゃーきゃーと声をあげてはしゃぐ。
「あたしのマンガみたい!」
「じょうず、貼るのじょうずねー。ののん、才能がある!!」
母親も拍手してののんを褒める。そしてののんの毎月の習慣は、マンガ雑紙をあきるまで読んだらこれを切り抜いて、スクラップすることになった。
ある日、ののんに閃きの彗星が落ちた。
「――ののん、じゃあ、こうする」
「え?」お母さんが、娘がクレヨンを持ってきたので、目をおおきく瞬かせた。なにをするんだろう。我が娘ながら――なにを――
マンガのコマは、バストアップのキャラが多い。
切り抜きだらけの、ののんのスクラップブックは、バストアップのキャラクターばかりが集合するようになっていた。
そこに、ののんの手により、下半身が足された。ぷっくりとふくれた下半身に足が1本、足の左右にヒレがつき、それはマーメイド・プリンセスの足先である。あらまあ、と母親が感心した。次々に下半身を切断されたキャラたちがマーメイドデビューをしていった。男もデビューした。スクラップ帳のマンガのキャラたちは皆、マーメイドになった。
母親は、親の欲目があるにしたって娘の発想力に感動する。かわいいね、きれいだね、褒めながらいっしょになってスクラップブックを覗いた。
「ののん、魔法使いだね。皆をマーメイドプリンセスにしたね!」
「うん!!」
これはよほど、ののんの情操教育に影響を与えて、その後、成長とともに黒魔術なんぞ研究しはじめて怪しい本など蒐集するようになるのだが、そんな未来はまた別の話で、これはメルヘンな良いお話である。
ののんは、幸せな魔法使いだった。このとき、確かに。
END.
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