草った溜まり場
腐った水場にはどうぶつも寄らない。人間もちかづかない。ただし、人魚はちかづく。
不死なる命の彼女らは、水が腐ってようが汚かろうが問題なしだ。むしろ、変わったニオイの水があるわ、なんて喜ぶ。
彼女らは、キャッキャと黄色い声をあげて腐り水をかけあって遊ぶ。汚物と腐臭にまみれるその姿は、バケモノの狂乱と呼べるものである。キャッキャ、ウフフ。歓声が草を生やすようにして、腐り場をいろどった。
これを見た、たまさか出くわした旅人が、人魚らが去ったのちに水場に顔を出した。
「ぐうえ……っっ」
嘔吐した。それほど汚れきった場所だから。
しかし、吐しゃ物まで混ざろうが、腐ろうが、おかまいなしで人魚らは気が向いたらまた変わったニオイの水場に遊びにくる。
さながらコンクリートで固めた地面、その破れ目から咲こうとする、健気な一輪の花のように。水場に魂があるならばどうにかしてどうにかして、人魚ら彼女らを呼び込もうと、ますます、汚く醜くなろうとしていた。
人魚ら、彼女らという、草花を生やすためだけに。
かえってそれで、ますます忌避されるのに。
水場が埋め立てられる日は近かった。
END.
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