連休明けがずっと続いて欲しいときのオチ方

魔女はふりかえり、ひときわ強い思念の持ち主の姿を確認した。

塾のマークらしき特徴的なロゴ、それに蛍光に光る交通安全のお守りをくっつけているかばん。齢は11といったところ。
魔女は目をすぼめて思念を読んだ。そして、なんと哀れな、と今世紀の陸の覇者たちの生活を思いはかなんだ。

(そう。ゴールデンウィークとやら、ずっと塾だったの。ゴールデンウィークが明ける? 終わるという意味か。これが終わればしばらく休みがある。そうか。それが稚児の渾身の望みになるとは、なんと冷えた今世紀か)

魔女は、親切や同情を動機にして自発的にマジックを操ることはない。
これも、邪気を含んでの行為であった。

清らかな乙女、魔法で泡にしてやった人魚姫の姿を奪い取ってその姿のまま、陸地を楽しんできた女の姿が、雑踏にまじって立つ。
女はくちびるだけ、うごかして、マジックを与えた。

ゴールデンウィークの連休明けがずっと続いてあげますように。皆が皆、連休明けをずっと体験できますように。

こうして日本の習慣は大異変を起こした。あの子どもの塾は二度と来ない。けれど大人たちには、二度と、連休が来なくなった。

「最近、すごく、疲れて……」
「どうして? ゴールデンウィークで遊びすぎたのかな」
「まるでずっと働き詰めみたいだ」

「やったー。なんか塾ねーや! ゲーム、いいでしょ母さん! ゴールデンウィークはあんなに勉強したんだからさ。今日くらいゲームをやらせてよ」

ぐるぐる、廻るようになった日本を出ていき、乙女の姿の魔女は、次なる破壊の矛先を探している。

次に壊れるのは、どの国か?

魔女を陸に揚がらせてはならない、古代生物なら誰でも知っていた。人魚姫は、だから魔女との取引を一族総出で止められたのだ。

しかして契約は果たされ、魔女は乙女の可憐な姿を手に入れて陸を歩いている。
惑星が今までいくつもそうしたように。
そうされてきたように。

深海に封じた筈の悪意が、足を得て、今世紀を終わらせようとしていた。
終末が明けたとき、狂わされた者たちが残るのみ。

次の世代への交代の潮目であった。


END.

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海老ナビ
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