誰しも悲劇が見たいのでは? と部長は思うのだった
人魚姫を怖くするのはカンタンだよ。演劇部のシナリオ担当のSは言う。ほら、最後は王子様を刺殺しちゃうとか、人魚姫の見た目を生首みたいにするとかさ。いくらでもザ・バケモノストーリーに改竄できるよ。
だってだれもほんものを観たことないから。
ところが、そこまで豪語したSの仕上げたシナリオは、王子様と結ばれて終わるデデニー映画並の大円満になっていた。Sは語る。
「もとから悲劇なんだから、今更もっと悲惨にして何がいいのやら。今の時代はインスタントなハッピーエンド。人魚姫だっていい加減に幸せになりたかろうさ」
Sはひょうひょうと言う。演劇部の部長はまめ鉄砲を食わされた鳩のこころもちで、ふーん、と不承不承とシナリオを受け取った。部長としてはコレは悲劇と呼ぶにはなまぬるくて、もっと、もっと、もっと陰惨な地獄が見たかったのだが。うまくいかないものである。部長は、父母ともに事故で喪っており、親戚に預けられて肩身のせまい毎日を送っていた。誰かの不幸でも読まねば、やッてられない、のである。
ただ、部長の個人的な要望であるとは彼女も認めるところだ。シナリオはハッピーエンドの1稿目をブラッシュアップする方向に決まった。部長にすると、部長にすれば、悲劇だった。わざわざ人魚姫を推した意味!!
END.
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