解体ラブスト2-38
「なんのご事情もなければ懲役100年は軽く食らってるのをお忘れなく!!」
「わ。すご、マジでイメクラの村だったんだ」
「しまいには本当に刺すんですからね!?」
「……写真は」
「はぁ!?」
「撮影したら正当防衛で刺される?」
「刺せます!!」
そっか、しーさんが残念そうに掲げて見せてきたタブレットを下ろす。コイツ。根が悪党すぎている。
そのうえ、しつこい、本当にしつっこい。
しーさんは、昨日の詫びと言い、トイレも洗うし野草の仕込みもやるし掃除機かけるしシンクも洗うし風呂場も洗うから先に入るね、と。甲斐甲斐しく動きまわって、若干むしろご機嫌とりの域にきてて、気持ち悪いなと感じるほどだった。
でもちがった。
ハメられた。
計略!!
どこまで性根が歪んでるの。
「……あー……、なるほどなるほど。ふーん……、へー……。フゥン……?」
「くっ!」
(なんだかんだでずっと寝てたから、ふて寝してたから!! するんじゃなかった。中学の制服だしっぱなし……!!)
ごろ寝を起こされて、風呂空いたと告げられて、なんかもう疲れていたので普通にお風呂に入ってしまった。
考えては、いた。
ふるさとの話、アタヤの話、なんかもうぐちゃぐちゃになったし、しーさんはこだわらないようだし、汚いとかはどうでもいいみたいで私も肉体をそっちの意味で汚された事実はないことが、なんか、最悪ではあるけれど、プロのお方に確認されてしまった。
なら、話の途中だった気がするけど、やぶへび。
私も過去、もう戻らない。
あそこには。
しーさんがこだわってきて、しつっこいから、執念に負けて……いや、執念を打ち消す為に、そもそも話をしようと決めた。
でも、しーさん、打撃になるどころか。馴れ馴れしさが増した気すらする。
逆効果だった。
あらゆる、意味で……。
ならもう。話すべきこともないか、お風呂場でお塩の入浴剤に浸かりながらようやっとモヤモヤを消した。話は途中で変な行為に乗っ取られたけど、もう果たすお役目も無いなら話すだけ面倒が増えるだけ。
私も思い出したくない。あんまり。昔のことでしかない。
そう。それで。
お風呂を出たら、パンツとブラジャーが白い色の外用のやつにすり替えられてて、私のスウェット着ではなくて中学の制服だけが残されていた、という怪異。
いや。犯罪。
「だってさ。ほんの数年前は? 見放題だったわけだ? 俺はこんなに沙耶ちゃんが好きなのにそこらの村人が俺の知らない沙耶ちゃんのイメクラサービスを知り尽くしてる、そんなの、許せる筈ないだろ」
「私が知ったこっちゃないんですけど!!??」
「いいや、知ってもらわないと。今は沙耶ちゃんを好きなんだから俺が」
「なんの理論!! 理不尽すぎる!?」
「それが世間だよ。……にしても沙耶ちゃんがそんなカッコさせられてても処女だったの……、うーん、着てる姿を見るとやっとちょっと納得できるかも……?」
「なんなんですか侮蔑ですかイメクラにもなれてませんか魅力なんてどうせありませんよ悪かったですね!?!?」
「や。ちがう、んん」
「ちょっとぉ!!??」
口もとに手をやって「うーん?」、うなっては、あっちに来たり、こっちに来たり。しーさんが角度やら距離を変えるから、私も対応に四苦八苦せざるをえなくなる。
久しぶりだから少し自信が無い。でも、しーさんの暴虐、こんなのこっちが許せない。
手指で下着が見えないように、昔やってたみたいに。手品かよとか言われた。
パンツは覗けないよう、死守するこれ。
しーさんが、感心したふうに聞こえる声でうなる。
なんなの!!
「……コレはコレで……なかなかどうして、だな。高度な変態プレイだよ沙耶ちゃん。グッとくるモノある、見えそうで見えない、それを沙耶ちゃんがやるわけで……ンん、だいぶ……沙耶ちゃんさ、自分が……なんだろ。まぁ兄? 村? いつか殺したいかな確実に? それはそうと。コレなら確かに? 育つのを待つのも、育ち方を見ているのも楽しめるよ? うん。敢えて名付けるならクリスマスを前にしての七面鳥プレイか」
「名付けるなそんなもん!! なんの視点ですか!!??」
「……イメクラ風俗に通ってくる、変態性の特に高い……クソ客視点……?」
「こ、こ、…………っぐぅ」
「ん? なに」
「……言ったことないのに……っ。殺せーって叫びたくなるじゃないですか。今さらこんなん着せるのマジでやめてですよ……!」
「…………、ん」
「な。な、なんですか包丁はしーさんの後ろの台所なんですが!?」
「……休憩……? トイレ休憩にしよう、うん、うん。ちょっと早すぎるけど」
「…………!!!!」
くちが。ぱく、ぱく、して。
もう。空いたくち、ふさがらない……。
昨日の今日だから。トイレで何が行われるのか。わかってしまった。
こ…、な……。
(こ、ころせーっ、だし、泣きたい……っっ)
この悪魔。どんぐりの髪の色した悪魔! 照れて笑う場合か!!
「えっと。ゴメンね。沙耶ちゃん、でも七面鳥プレイで済んでて被害が本当に無くてよかったよ。危なかったね。ガンバってたんだね、沙耶ちゃんは。エライね」
「貞操の危機しか感じられないタイミングで褒めるな……」
「はは。それもそうだ」
軽い、しーさん、軽い。倫理観も死生観も貞操観念もなんもかもが究極に軽すぎてる。
ふと、処女じゃなかった場合、どうなっていたのか……疑問になってしまった。おかげで。
途端、背筋が。今までの比でなく、寒くなった。
顔面が青ざめる、その音が聞こえた。
しーさんは、ずっと私を見てるから。ずっと前から。最初に会ったときからずっと。
すぐ、気がついて、何を思ったのか自分の照れた顔をパタパタと右手であおいだ。恥ずかしいな、なんて言ってる。
「俺、べつにこんな男じゃなかったよ? 沙耶ちゃん。まぁトイレ使っていいよね。今回も。仕方ない、お互いの為に。ありがと、もういいよ沙耶ちゃん。イメクラ付き合ってくれてありがとうね」
「こ、……この制服、明日ドラム缶で焼いてくる……」
「いいんじゃない? 別の話になるけどさ、やっぱそれを衆目に晒されて遊ばれてたのかと思うとさ俺ちょっとどうにもかなりやっぱ絶対に許さないしイヤになるわ。焼いていいよ、俺も見れたし」
「焼きづらくなるコメントをほいほいとしない!!」
はぁい、なんて軽すぎに言って、悪魔はトイレに消えていった。
いやもう。どうしよう。
このアパートがどうしよう、すぎる。そもそもなんでこの男性をうちに匿っているんだっけ?
(あ、結婚、してるんだった)
いや、いやいや、罠だ。罠すぎる。
もはや改名すら、しーさんはもうどうでもよいのでは。
「………………………。…………」
短すぎる、脚の付け根にきていて、太ももが丸出しのプリーツスカートを指に摘まむ。
あれだ。やっぱり、燃やせない。まだ。
まだ、この制服が着れてしまえる。もっと早く大人になれたら、そうしたら、それから燃やしたい。早く、着れなくなりたい。
あと、あと私、もしかしたら、男運が悪いのもしれない。
(……着替えよ……、バカらし)
幸い、いや最悪。しばらくしーさんは出てこない。
遠慮なくバサリと制服をスカートからひっくり返して、頭を引っこ抜いて、うらがえして脱いで。
パンツとブラジャーだけの姿に、なった。
END.
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