機械じかけの傲慢姫
「起きて……。起きて、王子様……」
難破船から王子様を助けた人魚姫。きっと一生懸命に呼びかけたんだろう。王子様を陸地に、現世に戻すために。
他にも船にはいっぱいの船員がいたはず。それを見捨てて、わざわざ王子様だけを助けるなんて、人魚姫ってきっと生まれつき目ざとい。損得勘定が無意識に一瞬でできちゃうタイプだろうし、女の子にはきらわれがちな女だろう。あたしは、そこが気に入った。
目的のためになんでも捨てる、なんて、大層な度胸と胆力がなければ不可能だ。
人魚姫は、無意識に秤にかけて、王子様だけをとってそれ以外は捨てたんだ。だから決して美談ではないとあたしは思うけど、物語が美しいのは、確かに。だからあたしは『人魚姫』が好きだ。
だから……。
「起きて……。起きて……、朝よ、朝よ!」
「う、うぅ……、5分まって」
「朝よ!」
あたしの人魚姫こと、マーメイドの尾びれをかたどってある目覚まし時計が容赦なく騒いだ。頭蓋骨にびりびりくるジリジリした音とともに。
あたしの人魚姫は、目覚まし時計。意向を凝らした時計だから高かったけど初任給で買った。
ほら、絶対、目を覚まさせてきそう。あたしはノロノロと起き出す。機械じかけの人魚姫は頭を叩いて停止させた。
王子様も、こんな人魚姫がそばに居たんならすぐに目を覚まして物語はハッピーエンドになってそうだ。毎朝、そう思う。もっとちゃんと起こしてやりゃよかったのにな!
他の船員を見捨てたんだから。
ハッピーエンドになるぐらい、彼女の責任のように思える。これって傲慢かしら。
END.
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