宇宙棲息する人魚姫は


宇宙にも魚がいる。

人間はこれを銀河系を脱出してから知った。

ドラゴン、悪魔、妖精、ろくろ首、一つ目小僧、マーメイド……、それなる幻想世界の住民たちにまつ割る創作は、実は、銀河系外惑星に棲む生き物たちが発するテレパシーをたまたま受信したがゆえの、特に感度が高かった者たちの手によって自動筆記のように記された <本物> の宇宙歴史であったことを、人類は知ったのだ。銀河系の外では魚が宇宙を泳いでいるし、ドラゴンは無重力空間に翼をはためかせて飛翔していた。生きるファンタジーがそこかしこに広がっていた。地球の常識なんて、蟻の糞だったのだ。

最初にこれを発見した人類は、発狂したとされている。本当に狂ったのか、はたまた彼の発見が信じられずに周囲の学者たちが彼を拒んで発狂者とみなしたのか、どちらが正解かは定かではない。いずれにせよ、もう1000年も昔の話だ。

さて、銀河系外惑星、生きるファンタジーのこの世界では、悪魔も天使も妖精も星ごとに棲息している。

地球を旅立った人類も分散してそれぞれの星に棲家を間借りなどするようになった。ある海の星はマーメイドたちの楽園だったが、彼女たちは人類と出会ってからというもの、次から次へとと人類に惚れ込んでしまって連日の大騒動が続いている。どうやら人類種は彼女たちマーメイド種にとって媚薬めいた魅力があるらしい。

マーメイドたちは、こぞって外惑星へと出向き、魔女やら悪魔やら天使やら神やら妖精やらと契約して、声やら姿やら足やら目やら脳みそやら髪やらを失って戻ってくる。なにかを代償にして、そして人類に愛を求めた。

「あなたが好き! ケッコンして!」

皆、訴える内容は同じだ。人類種はこれを拒むことはできなかった。宇宙のマーメイドはなぜなら外惑星の住民たちに愛されていて、下手に求愛を断れば外宇宙からの追放を宣告されかねない。マーメイドたちはその美と無垢がゆえに宇宙のお姫様として一種の信仰を寄せられている。この星が魔力豊富な魔の星とされる謂れである。

いまいち、それをわかりきってない人類がマーメイド星に降りたら最後、男だろうと女だろうと夫婦であろうが子持ちであろうがそれぞれマーメイドに惚れられて、人類は一人ずつマーメイドたちに連れていかれる。マーメイドの伴侶として一生涯が決定される。ここは、人類からすると、怪談の惑星だ。

あるファンタジックな小説好きの読書家が、マーメイド星にたまたま立ち寄ってあれよあれよと一匹との結婚が決まったとき、ひらめいた。合点がいってつぶやいた。

「セイレーンの歌声が船を沈めるだとかいう民族伝承。アレが地球にあったのは、こういう宇宙マーメイドの性質を作家なりに受信して書き出したものだったのか…!! どうりで世界各国に似た民話がたくさんあるわけだな!!」

結婚式はつつがなく終わり、彼もまた、二度とマーメイド星から出られなくなった。


今日も明日も、えんえん、永遠に、新たなケッコンシキは開かれる事だろう。




END.

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海老かに湯
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