残業疲れのマーメイド
陸の世界は残酷だ。まず残業。あと残業。さらに、ここ最近はテレワーク追加。人魚姫はタンカー船の座礁現場からとある会社社長を救出しておとぎ話さながら彼に恋して魔女の手によって声を奪われつつも彼の会社にまでおしかけるのに成功した。魔女のススメにより、ハローワーク求人を通して、失語障がい者枠での採用になった。魔女はさすが魔女、リアリストだった。
ところが、残業、残業、残業!!
陸は過酷である。社長に面接されたとき、採用されたときの浮かれ気分はどこへやら、人魚姫はすっかり参って陸の世界に嫌気が差してきた。
そんなだから、ある日、残業帰りに海恋しさから夜の海辺を歩いていたところ、人魚姫を心配した8番目の姉がぽちょんと海から頭を突き出して「あんた、だいじょうぶ? つらかったら帰ってきなさい。魔女から、海に帰れる方法を聞いたわ。王子を刺し殺して……」なんて話すのを聞いて、聞いてるうちから、人魚姫は砂に膝をついて、わんわん泣き出した。もう働きたくないのである!!
そうして尻尾をまいて人間社会、魔の東京、丸の内ビルから脱走した人魚姫。
あとには、社長の刺殺体が残された。立つ鳥跡を濁さず、ならぬ、立つ魚跡を濁しまくり、である。
それも仕方ない。なんせ彼女は魚だし、海は濁るものだから。
おしまい。
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