そして幸福になるために

陸へあがり、王子様に失恋し、しかし姉たちに王子を刺し殺せば人魚姫に戻れるよとナイフを差し出された人魚姫。しかし。

人魚姫だった少女は、淡雪のように微笑んで、首を左右にふりました。

ナイフは受け取らず、姉のこぶしを握りました。優しく、愛をこめて。

慈愛をふんだんに浮かべて少女は微笑んでみせながら、左右に頭を揺すってナイフを否定する。姉たちが説得しても、ナイフは受け取りませんでした。少女はやがて立ち上がり、素手のまま海辺を立ち去ってゆき、翌日の王子様の結婚式のための厨房の準備に戻るのでした。

王子を刺し殺さば人魚姫に戻らん、この神秘を拒絶したがゆえ、人魚姫は朝を迎えても泡になって消えません。人魚姫は婚礼式であわただしくメイドとして働きます。式を終えた王子と、もとはシスターだった女が、寝室にともに消えてゆくのを見送りました。

そうして人魚姫も背を向けました。初恋に。王子様に、彼に恋した自分自身に。

しゃべれずの少女は、少ない給金をかき集めて旅支度をします。朝日を浴びながら、翌日の彼女は出発しました。まだ見ぬ、誰かに会うために。

なにせ人魚姫は元・箱入り娘。陸にあがってみればオスだらけ、男だらけで、第2第3の恋愛なんてすぐに見つけられる予感がもうしているのでした。陸地は自由なのでした。

次の男を探すため、希望を胸にしながら、朝日の暁光に満ちる大通りをくだって少女は旅立ちました。

めでたし、めでたし。


END.

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海老かに湯
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