転生者はおみくじで思い出しました
初詣でおみくじを引いた瞬間、ミドウハルカは思い出した。
そうだ。私、前世では人魚姫だったんだ!!
ミドウハルカはダウンコートに見を包み、両足をキチッと並べて立ちながら、おみくじを読む。今日はたまたま早引けができて、会社帰りに地元の神社に立ち寄った。ぎりぎりで16時55分にお詣りができた。
『……失せもの ……現れる。』
ミドウハルカは、おみくじを凝視する。いてもたってもいられず、そわそわしだした。
神社のトイレに駆け込んだ。蛇口から水を出して、冷やっこいのと痛いのに耐えて、手に水を貯めた。そしておみくじを入水させた。おみくじは。
溶けてゆく。紙だから。ゆっくりにほつれて文字がにじんだ。紙のはしが緩んでかたちを失ってゆく。消えていく。溶けていきそう。
ミドウハルカは、感動した。
「私、こんなふうに死んだんだ」
溶けて消えていく、おみくじ。泡になって消えた人魚姫。当事者だからわからなかったけれど、現世の記憶もある今なら、わかった。
前世と現世、ふたつよの記憶でもって、人魚姫だった女はようやく理解できた。泡になって溶けてはかなく消える、死ぬ、それって、
「やだ。私、カッコイイじゃん…!!」
それって、美しい!
ようやっと人魚姫は自分の死にざまが語り継がれて現世にまで残っている意味を知った。美しいから。イイ死に方だから!
「……やだ、…、私、今回もちゃんとこんなにキレーに死ねるのかなぁ……?」
水をびちゃぴちゃいわせながら、大吉のおみくじを溶かしながら、いらん心配をする。
元、人魚姫。22歳になる、人魚姫の生まれ変わりの冬のある日である。人生においておおいなる目標ができた、ある日、である。
溶けるよりも美しくてキレイな死にざまってなんだろうか。
END.
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