青臭い女の子とあなたの主観
彼女は青臭いと悪評がある。サンマとか魚市を指す青臭さではなくて、ロマンティックな人魚姫とか童話とか、そういう青春の青色をしている臭みであった。
とかく、発言が夢の世界から発信されるお姫様のお言葉みたい。
「もっと話をすれば、戦争はなくなる。世界平和ってかんたんに実現できるのよ。皆が変わりさえすれば」
「ちょうちょ! かわいい。教室からだしてあげなきゃ。ちょっと男子、叩こうとしないで! バカなの? 虫取り網ってどこにあるの?」
「イジメなんて悪いことでしょ。謝って。今すぐに謝ってあげて」
「こうすれば、ほら、誰にでも解けるわ。かんたんでしょ?」
正論は、ときに正拳突きになる。パンチを相手の横っ面に叩き込むのと同じだ。頬か、心臓か、血管か、デリケートな神経細胞か、そうした些細な違いはある。しかしそのくらいしか違わない。
彼女のある一日、お姫様と夢見る少女の悪魔合体を果たしているその本質が、露わになった。だから、だれも、彼女を負かすことはできないし、世間は彼女をお姫様として許容するしかないのだ。
彼女は、通りすがりにフワッと香った酸っぱい臭いに、ふり返った。
みすぼらしい、誰か卒業生により寄付された制服を着ている少女。髪はぼさぼさで目の下にクマがあって常に不幸そうな眉のカタチでくちを品曲げている女の子。ちいさわ巾着。片手にしていて、お昼ごはんらしいそれは、傍目にもリンゴ一個分くらいの質量と見てわかった。
お姫様は、あっさりと告げた。
「○○さん、臭いですよ。お風呂に入るかシャワーを浴びるか、ちゃんと清潔にしないと。フケツになるのよ」
「……………!!」
憐れで惨めな女にされた女学生が、目をみはり、それから走り去った。
購買のレジ袋をさげる友人たち、彼女を取り巻く彼女の世界を受け容れた奴隷たち、それらが少しだけ無表情になる、眉を寄せるなど反応した。
が、彼女がまたふり向くと、いつも通りの柔和な顔つきをした。ともだちの顔を。
「困ったヒトね、○○さんは。ウチのパパの病院で診てもらうよう、頼んであげたほうがいい?」
「やめときなよ。誰かと関わるのがイヤなんだよ」
「病院は好きじゃないんじゃない? ほら、バンソウコウ、よく貼ってる」
「あの子はよしときなって」
「ふうん。みんな、冷たいんだから」
彼女は世界の常識のように言い放つ。彼女の悪評は、またひとつ、増える。
誰が臭くて青色をして血なまぐさいのか、それは、読むあなたの主観によるだろう。
END.
読んでいただきありがとうございます。練習の励みにしてます。