ザマァのザマァで馬鹿をみる話。
アノコが本当はあなたを助けたんだよね。
言わずにおいた、ひとこと。
言わずに挙げた、結婚式。
もう遅い。
勝った。あの黙りがちな子、内気すぎて自分から名乗り出る勇気もなかった。もの言いたげに私を見つめる眼差しは、必死なものがあった。
みじめ。
ミジメな、子。
そえ思うだけで無視をした。
無視に抗議をあげることもなく、男のかんちがいに、取り違えに異議を唱えることもなく、高校生活は終わり、校内イチバンのイケメンに気に入られてお姫様みたいに大事にされる日常を手に入れた。
しかも実家は、太い。弁護士や医者が親戚にうじゃうじゃいて親は、不動産業をうまくやっている。なにもかも、まるで王子様みたいな、少女マンガから出てきた男だった。
結婚ができた。
大勝利。
いや、高校卒業で例のホンモノと別れたときに勝敗は決した。あれ以来、会ってもないし、夫はアノコのことも気にしていない。部活が同じなせいで面識はあり、名前は覚えてるようだけどそれがどうした。
勝った。
勝った!!
あとは、幸せに暮らしましたとさ。
それでいい。
けれど、王子さまが実在するなら、政治にも詳しく、教育は行き届き、その視線は冷静沈着で冷淡ですらあるようだった。アノコとはまったく真逆の眼差しが、最後に合ったときに、覚えている。
無料の弁護士相談所で叫んだ。
「こんなに財産分与が低いなんておかしいでしょう、もっと財産あるでしょ」
「それは、婚前前のものからのもので……、今の貴之さんは、まだ、会社員です。その月給を等分しまして……」
「もっと金が入るでしょう」
「結婚期間のうちに発生しますから……、今の貴之さんはまだ会社員で」
「それはもう聞いた。訴訟は!」
「…………むずかしいですね。私は、引き受けられません」
なんでよ、なんで。
なんで!!
嵐の海に沈むかのよう。なんだこれは。なんで、どうして今さらアノコを思い出す。あの眼差しを思い出す。
元夫の眼差しの冷たさ、アレの凍てついた残忍さを溶かす、癒やす、どうにか温和にさせる、そういう温情を今、必要としている。
なぜ、そこでアノコの眼差しを思い出すのか。
なぜ、こんな無意味な妄想をするのか。
アノコと元夫が結婚していたなら、今のこんな苦境、アノ子が止めさせていた……そんな、強烈な、バカな妄想が止まらない。
あのふたり、ぴったりだった。
今になって実感する。
バカ、バカ、バカ!!
皆、みんな、バカだ。そんな話だ。あの子も元夫も今のあたし、バカだから、こうなった。
馬鹿、馬鹿、馬鹿!!
妄想を止めたい。弁護士がカウンセリングを勧めてきた。バカか。そんなんで、金使ったら、アッと言う間に財産分与を使い果たして路頭に迷う。
馬鹿、馬鹿。全員がバカな、話だ!
END.
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