男の趣味が最悪です(コメディ)
まず、胸にパッドいれてるH男。女装趣味はまだいいとして、そこにリンゴを詰めて胸パッドまで仕込むってちょっと趣味がわるいです。そんで自宅にきのこの原木なんぼんも育ててムシムシと高湿度にしてるP男。この前、服にエノキダケがついてました。
先輩もとんだDV男ですけど、話に聞いた限りじゃお父さんも最悪ですよね。
THE・昭和でおれについてこいってタイプの亭主関白。女は台所で飯食ってろって。最悪です。先輩、それで彼女を殴ったくせに、よりを戻したいんですか? 最悪です。
「いや、おれの話、聞いてたかな」
ファミレスのボックス席で、タータンチェックの黒と赤のワイシャツを着てるメガネの先輩が、申し訳なさそうに話を蒸し返した。「聞いてました」あたしは、憮然と言い返してほほづえをつく。
「じゃあわかってくれても……、しょうがなかったんだよ、うちの親父までぼろくそに言うけど、あれでも寺の住職でさ。能力はばっちりお墨付きなんだよ、で、おれは跡取り。で、除霊方法が」
「殴ったらそれDVですよ」
「でも家賃が安いからってあんな一等地の幽霊マンションに住むこたないだろう。おれだって何度も止めてるんだよ、でも住むからさ」
「で、あうたびに、殴るんですか!?」
「憑いてきてるんだよ!!」
先輩が、頭を抱える。いかにもオタクな風貌の先輩がそうすると、なんだか演技臭いのであたしは余計に不信感をつのらせる。
「引っ越してくれるのがいちばんいいんだ。だから、頼子ちゃんに頼んでるんだよ……! 頼むよ! どうにか決めさせてやってよ」
「つうても、別れたらって話したばっかですし」
「やめてくださいそれは!!」
先輩は、たまに、あたしにすら敬語になる。
あたしは、ハンバーグ定食のハンバーグを切りながら、先輩の男の趣味のわるさに話を戻した。
「先輩、友達だって変なの取り揃えて変人オンパレードじゃないですか。みよ先輩こそ、よく耐えてたと思うんですけど?」
「それは、だから」
「だから?」
「……幽霊も、変人にはよりつかないんだよ……。おれ、友達まで幽霊沙汰とかイヤなんだよ。だから幽霊がまず取り憑かないやつが前提なの。おれの友達の前提。つまりは頼子ちゃんだって」
「あたしがホラーゲームのコスプレイヤーだからってバカにしてます?」
「してないよ!! 尊敬してるよ!!」
あたしの家には、某ホラーゲームの三角巾むきむき男のコスプレ用のブレードとか、処刑用具とか、鉄の乙女とかの拷問具が盛りだくさんだ。でもそれって今の話に関係あるかな? ないよね。
そうは思うけど、先輩は両手をつけてテーブルに平頭する。
「このとおり!! 頼むよ。みよに話をつけてよ。殴ってるのはみよを殴ってンじゃなくて変な低俗なユーレイを殴ってるんだよぉ、おれは!」
「それ、先輩の妄想じゃありませんか?」
「あのさ。おれさ。寺田寺之助。寺生まれのTさん。ネットにいくらでもおれの武勇伝、転がってるだろ!?」
「あれはたんなるネタじゃないですか」
「いくつかはおれだよ!!」
ほんとうですかぁ? あたしの視線に、先輩は困りきったように眉を八の字にさせる。そうしてキャミソールに短パン姿にサンダルをひっかけただけのあたしの服装を覗こうとした。
「フィリピンでの手術台……、カンパしただろ、おれも! リンゴつめてる春男もキノコつけてるポリジャンも! おまえ、女になれただろ!」
「んなこと今更、関係ねーし」
あたしは、堂々と言い放つ。そもそもはあたしもコイツの『変な男友達』のカテゴリーの一部だったわけだけど、そんなの今は関係ないし。あたしは、女の子になったわけだし。
「みよ先輩とよりを戻したいんなら、みよ先輩と直接、話せば?」
「それができれば苦労しない。あいつ、幽霊、信じないんだよ」
「別れなよ!!」
深夜のファミレスでこんな話ばかりが連日、繰り返される。せっかく女になれたのに、周りの男は相変わらず、趣味が最悪の連中ばかりなので余計な苦労してばかりだよ、ほんと。
END.