3月3角形のこだわり青春
3月は三角形をしている。Aくんにしたら十二ヶ月は4つの三角形による四角である。数学的な根拠も意味も理由もなくて、Aくんの感性による話である。
Aくんにはフォークで突き刺してやりたいほど嫌いなものがある。
2月29日。
コイツは、三角形からも四角形からもはみ出して、図画をふしぜんにボコリさせる。ぴちりと嵌まらないのだ。
「今年は無い……よかった。このまま消えちゃえ、消えちゃえ、消えちゃえ」
カレンダーを見ながら呟くAくん。傍から見て、頭がどうにかしている。こだわりと独断が強すぎる。
しかし、Aくんは、別に異常ではなかった。Aくんはただ、ただ、好みが偏っているだけなのだ。母親にカウンセラーにまで連れて行かれたが、Aくんは、こころから心外であった。こだわりの強さはそんなに害悪なのか?
しかしてAくんは通常の人間と同じ感覚もあるのである。べつに、美人でもなく、人気もなく、陰日向で本を読んでいるような女子がある日、Aくんの塾の席替えで隣にやってきた。Aくんは、その日から、少しだけ緊張してそわそわして学習塾に通うようになった。
『その本、おもしろい?』
一言を、いつも胸に閉じ込めて、これを解放するチャンスを狙った。
同年の3月31日、整っていない眉、リップもしない唇、ニキビ跡のあるほっぺた、いつも通りの彼女は、朝からため息を吐いた。
Aくんは、純粋に、心配になった。だから声をかけられた。
「え? ああううん、なんでも。ちょっとさぁ……、あたし、うるう年生まれなんだわ。誕生日が2月29日。なんか今年も歳とった気ィしなくって、んでもう3月でしょ。なーんだかねぇー」
「いや、オレはそれ凄いと思う」
「へえ? なんで」
「特別なピースだよ。それは。阿形日…さん。特別な星のしたに生まれてる」
「は? ……どういうこと?」
Aさんは、思いがけなさそうに頬を赤らめた。
Aくんも、頬どころか顔面を赤くぽっぽとさせている。
二人の関係が転がった瞬間だ。
2月29日が意味をもち、十二ヶ月の四角形を転がしてゴロゴロさせて、これは以降ずっとゴロゴロすることになった。2月29日は、四角形がまわり続ける為のギミックになった。
Aくんは、一年でいちばん、2月29日を愛するようになる。
やがてAさんも愛するようになる。
2月29日が見えない一年間だって、ふたりには、その日が見えるようになった。先の話ではあるけれど。
始まりの3月31日の話。
ああ、4月1日じゃなくてよかった、Aくんはひそかにこだわった。
END.
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