ストレンジ・犯人のスピードにきみはついて来て
おかしなおかしいお菓子の時間が大好きだ。みんな、大好きだ。子どもならすなおにお菓子、オトナの男なら酒と女、あるいはアニメと漫画とか。可笑しい美味しい時間に、誰もがお金をはらう、けれど、子どものときには親がなんとかしてくれた。
だから、子ども時代って楽しかった。そう説くひとがいた。
たまさか、目の前の彼女は、マッチングアプリで出会った女性で、美しく着飾っていまどきのパリッとした美女の出で立ち、ツルツルした天使の輪っかつきロングヘアをみつ編みなどにして美しく纏めている。
彼女は、目を笑わせず、お愛想笑いをした。けれどその瞳の奥はやはりどう努力しても笑えないようす。
彼女は、努力ですべてを生きた、人間であった。過去形であった。今は刑務所にいる。
結局は、無言で、立ち上がってパンケーキのセットナイフで、目の前の高収入イケメンの顔面を串刺しにザクザクと利き手をひたすらふりおろす、作業、を始めていた。
人魚姫も王子様を刺殺す時代。
恐ろしや。
マッチングアプリ。
恐ろしや。
SNSネット社会、あな恐ろしや。
テレビやネットを騒がせた。女性が、やがて施設育ちで、幼児労働というかたちで幼児に家事をさせる、過酷なネグレクトと虐待を受けて、それゆえに親元の手を離れることになった。風俗業を昔はやっていてアダルトビデオの出演歴もあることが週刊誌では赤裸々にえがかれた。
だけれど、刺し殺した、理由、この場面については、知っているのは彼女、その女、犯人だけである。
犯人はたまにしゃべることはあった。
しかし、理解を得られることもなかった。
なぜ、どうして、オリの外では騒がれる。いっときだけ。それを知るのは、わかるのは、犯人がいくら訴えても一握りの者たちだけ。
社会の断絶なんて今更の話だ。
世界が貧しくなってようやく世界が、彼女のような女に追いついた。彼女は、服役中で、整形したぶんのケアができず、美貌が文字通りに少し崩れてきた。
人魚姫の銅像に、ヒビが入る、みたいに。
END.
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