金の人魚姫は黄金でできていた。
金色にかがやく人魚姫は、からだが黄金でできていた。鉱物であるから死なず、しかし人魚姫であるから、魚と人間を半分に分けたほどの知性はあった。
黄金の人魚姫はとても重たく、あらゆる網にかからない。重さで網を破ってしまう。引き上げたとたんにばりばり破いてしまう。黄金の人魚姫は、しかし自分のヒレで泳ぐぶんには浮上ができる。
彼女が海面から顔を出して、ながく美しい黄金の髪に月光を映しながら身を反りかえらせるとき、この世で最も美しい生き物、お姫さま、あの世の入口みたいな末恐ろしさすら感じさせる、完全なる美がお披露目される。
海の生き物たちは、そして神様は、ただ一匹の黄金の人魚姫に惚れ惚れするばかりであった。
黄金で創られたのだから、金色人魚姫は、その美しさですべてを魅了して慰める。
そのために彼女は生きていた。
だが、ある晩に、金色に光る黄金人魚をある漁船が見つけた。人間が大騒ぎした。
「金だぞ、あれ」
「とんでもねぇ黄金だ」
「金だ!!」
漁船の男たちは、きょとんとする人魚姫に手を伸ばし、髪を掴んで引き上げた。金だ、黄金だ、とんでもねぇ大金だ。金のことしか頭にない漁師たちが、金色人魚姫を見定める。
そのとたんに、金色人魚姫は、目を閉じた。
役割が終わったと悟ったのだ。
この身に与えられた真価を、価値を、わからぬ連中に囚われたと悟ったのだ。魚たちも、そして神様もその価値をわかっていたのに。
美しさの価値をわかっていたのに。
当の、金色人魚姫にしても、わかっていたのに。
だから、彼女は目を閉じた。
金色人魚姫は死んだ。
その身はみるみる錆付き、銅色になって黄金どころか化石の装飾品、発掘された翡翠の褪せた色になり、ぼろぼろのくすんだ銅像に変わった。
漁師たちが、叫んだ。
「おれの金が!!」
「せっかくの金が…!!」
「なんでだ」
「なんでだよ神様、ちくしょう」
価値のわからぬ愚物が次々に愁嘆をあげる。その夜のうちに、漁船は急な嵐に遭遇して、沈んだ。
死んだ黄金とともに。
価値ある生き物はそうして自死した。魚たち、神はおおいに悲しんだ。そして、くちぐちに言うやら。
価値のわからぬ者は、これだから……。
END.