屠殺ラブスト2-2

「ああ。それね、俺の仕掛け。ゴメンねー、いきなり難癖つけられて大変だったでしょ♥ でも独りで耐えててえらかったね、沙耶ちゃん。弱音どころか相談すらなしときた。でもよかったよこうなる前に給料を上げておくように話済ませといて。ほら、さすがの俺でも悪いことばっかしてるわけじゃない♥」

「は??」

「そうだ、あと。沙耶ちゃんの頭の傷さ、俺が石で殴ってつけたやつ? そのポニーテールのミミに隠してる傷あと。それさ、俺の舎弟にわざとケンカ売らせて、そんで沙耶ちゃんを守るフリして間違えたフリして殴ったんだよ。ごめん、ワザとやった。俺の意志で。沙耶ちゃんそっちの方が可愛いと思って。ごめんね。殴っちゃって」

「は????」

「あとね、沙耶ちゃんの……なんだろ、経歴? 会社に出してる書類一式、健康診断の結果も毎年分をそれぞれ受け取ってチェックした。貧血気味だよね女の子ってほとんど。沙耶ちゃんはちゃんと肉を食べなよ。あと、」

「はァ??????」

「ん?♥」

しーさんは、にこにこしながら途方もないスケールの話? を、している。ヒトのベッドに勝手に座って、足組みして、一緒に暮らす前に説明しておくことがある、なんていきなり言い出したと思えば。

思えば、なにこの犯罪者は。

なに、この犯罪者は?

「あはは、怒ってる♥ まぁ当然だ。でも待って、まだまだあるから。最後まで話を聞いてもらえる? 沙耶ちゃん、そうコートひっぱらないで。急がないで。それに出てかないよ? 俺は。キミの旦那さんですが?」

「書類上だけです」

自分でも信じられない大声が出る。しーさんは、嬉しそうに目を細めて、まぁまぁ、なんて余裕たっぷりに1センチも動かない。なんだこの男性は??

「でも法律上ではしっかりした夫婦だよ、沙耶ちゃん。話を聞いてもらえる? ちゃんと話しておこうとする俺の誠意、少しは判って欲しいかな。こんな話をするのは沙耶ちゃんにだけだ」

「口説き文句みたいにして私にした犯罪を堂々と言えるご神経はどこから……」

「あれ。わかってたよね。俺、もともとこんな人間だよ。沙耶ちゃん、ほら座って。それともいきなり俺の膝に座る?」

「!」

手が伸びてくる。それを避けて、でもウチは狭いから、壁にすぐぶつかった。

……逃げ場が、無い。
血の気が引いていく音が耳から聞こえる。

しーさん。しーさんは、笑って、笑いながら、心底楽しそうに、私に対する犯罪履歴の告白を再開させた。うわぁ。うわあ……。

怖い。犯罪者の眼だ。いや、たしかに、それはとっくに知ってる。しーさんの、言う、とおりに。

ただ私、鈍感だったかも知れない。毒されすぎてたかも。
今、改めて、背筋が痛い。

馴れた気で、いたのに。
被害者になることにも、加害者にされることにも。差別されること、にも。

だからもう何も怖くないと思えてた、思い返せば。

しーさんは、今まで隠して、私を騙していたのだから、しーさんには、知らないフリができた。でも今、あえて、それを丸裸にしてみせる。それで私を、……本気で私と向かいあうつもり。

でなければ、こんな、告白なんてする、意味がない。

しーさんは、勘が良くてすぐ見抜いた。

そう、そう、愉快げな、相づち。
「沙耶ちゃんならわかるよね。そ、俺、本気なんだよ♥♥♥」

「わかりたくありません」

呟くだけで、固唾を飲んでる。うわぁ。耳がおかしくなりそう。
ウチにとんでもないヒトをあげてしまった。

罠に嵌められた? ハマりにいった? どっちだろう。

「沙耶ちゃんがね。沙耶ちゃんが、俺を見つけてくれたんだよ」

惜しげもなく犯罪告白をつづける男性は、酷く楽しそうに、歪みきった眼差しを注いできながら口角を上げている。いやいや。こわい。怖いです。怖いですってば。

今さら、怖いものを知るなんて、ウソみたい。


END.

読んでいただきありがとうございます。練習の励みにしてます。