大昔の古い海から、

人魚姫は永遠を愛さない。すでにその身に持っているからだ。

人魚姫は、海を愛している。
矮小な命たち。あっけない死にざま。捕食関係。生命のサイクルのなかで死んで死んでまた生まれる新しい命たち。人魚姫は、星に出来上がった巨大な命のプールを楽しんでいた。

しかし一方で、陸では猿人類の果てのニンゲンなる生き物が産業革命やらを起こしていた。陸はさま変わりして、陸の覇者は哺乳類種族から突出したホモサピエンスたちに決まってしまった。

海のなかから、人魚姫たちは、漂流物などからこれを察知した。最近、生意気なのが幅を効かせているのね。どうせやがて滅びる文明のくせに、やってくれるわね。

陸から漂ってきた、ゴミの山が海の底に溜まった。汚染されたオイルが蓄積した。星とともに生きてきた海にある、古代からの水にも勝手にパイプを繋げてソコから海水を汲み上げるなんて始めた。

無礼、のひとことで済むワケが、なかった。

「魔女に戻ってみましょうか」
「呪ってみましょうか」
「見て。こんなオカシナもの、流れ着いてきたわ。コレなら私たちにも作れるわ」
「そうね。それならかんたんね!」

人魚姫たちは寄り合い、話し笑って、フジツボ付きのDVDディスクの周りを泳いだ。人魚姫たちには魔女のチカラがある。童話でちょっと陸に漏れてしまったが、古代の海から生きる人魚姫たちのとっておき、だ。

人魚姫の一匹が、腐った水死体を持ってきた。海で溺死した、海に落ちたらしい男は腐敗してふくらんでドロッとしていた。
人魚姫たちは泳いでニンゲンの水死体に魔法をかける。

一匹が、手首を貝殻の破片で切り裂いた。

どくんどくん。水死体に血を飲ませる。喉へと手を突っ込んで、充分な血液量を注ぎ込んでやった。水死体は血をアチコチから漏らして周囲の水を紅くした。

そして、水死体は、目を見開いた。

永遠の命が今、与えられたのだ。腐敗しきって崩れるまで動くマリオネットの出来上がりである。人魚姫たちがこしょこしょした可憐な音で歌った。

「食べモノ、陸にあるわ」
「あなた達は同種のニンゲンしか食べられないわ」
「噛み付いたら、腐った血が伝染るから、皆も貴方とおんなじになるわ!」

人魚姫たちの言葉はすべて魔法だった。

海の果てから、こうして、贈り物が送られた。
人間達はこう呼んだ。

「どっからきたんだこのゾンビは!?」
「ゾンビ……、ゾンビだ!!」

人魚姫たちは海のなかにいるから、陸の騒乱は聞こえない。けれど100年もすると陸からの汚物もパイプもなんもなにもかも、止まって、それきりになった。

ニンゲンに関しては、それきり。

人魚姫は永遠を愛さない。陸はだからみんなどんな生き物も、命に期限がついてまわる。それがこの星の仕組みのひとつ、だ。



END.

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海老ナビ
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