雨のうちがわ、マーメイド。

しとしと雨音。海面を叩く音に人魚たちは、こぞって顔をあげた。
自分らの出番だわ、って。

海からヌルリと蛇がごとく這い出る。

ある者は欲望に従って人間を食い、動物を食い、またある者は人間のフリをして隠しておいた洋服など着て街へと出かける。マチアソビ。クイアソビ。

ある者は、ここぞと、男性のもとへ駆けつけた。

雨が降るごと会える、雨の日だけの恋人である。
キスをした。妻子をおいて、雨の日ばかりは男性も海辺、あるいは大雨であれば山へと入る。そうして舌をからませて液体を混ぜて捏ねて雨とともに地に垂らしていった。愛による液体を交わらせて人間と人魚が交配する。それはいつも雨の日。ザーザーした雑音のなかで。

雨のうちがわで、人魚たちはお姫様になれる。恋をしたらば、その刹那性を捨てて、人魚はお姫様になるのだ。

交配を終えた男性は、雨の音越しにお姫様に話しかける。お姫様は、腕に抱かれななら静静とそれに、答えている。
雨が小雨になってくるまでそうする。

それが、マーメイドがお姫様になる、人魚姫になれる、境目の感情であると、彼女たちは自分で知っていた。

だから食ったり街にでたりする。
お姫様になれる、相手に。
出逢うため。

そのため、だけに。
雨の日は漁る日なのであり、漁をする時間なので、ある。


END.

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海老ナビ
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