三浦は一眼レフを手放せない

人魚を食べたら不老不死になれる。古文書にも書いてある。ところが、メガロドンやダンクルオステウス、名だたる最強魚類と目される彼らは現代に生き残っていない。

つまり、不老不死にはなれなかった。逆説的にこれぞ人魚の不在を証明するものだ。

だのに、三浦依理は人魚研究と称して瀬戸内海を訪れていた。昔はここで人魚が目撃されたという。

ぴろ、ぴろ、スマホに呼び出される。

友人だ。『まじ? もう現地? マジで人魚探してんの??』

『(*>_<*)ノ』ピロ、と返信する。

スマホをポケットにいれて三浦は安宿にチェックインを済ます。早速、浅瀬にでて、一眼レフで海の写真を集めはじめた。檸檬のような涼しい潮風が全身をなで過ぎていった。

(べつに、人魚なんて、いいんだけどね)

三浦は写真を撮りながら、内心、舌をだす。そうだろう。人魚なんてマボロシ。非実在の創作。でもそれでいい。

写真を何枚も撮った。三浦にすると、瞬間を切り取ったこのワンショット以外の景色はすべてが非実在に等しい。潮風、真新しい陽光、汗ばむ暑さ、写真に写らないすべては写真を見る者には存在しないもおなじ。

だから、人魚も存在しない。写真に撮らないかぎりは。

写真に撮らない、かぎりは。

三浦は一眼レフを片手に、連日、浅瀬や海岸線に足繁く通った。なにかを探して。なにかを、写真に撮ろうとして。

人魚は、実在しない。今のところは、まだ!

でももしかすると、明日は違う。かも、しれない。だからカメラは手放せない。


END.

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海老かに湯
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