ぼくとクマの巣

クマの冬眠するときの温度は、実はさほど低くない。34度ぐらい。人間が、体調が悪くなったら、その温度にまで下がることがある。冬眠なんてしてないし、生きているし、起きているし。

例えば、それはぼくだ。
ぼくの平熱は34度と少し。

検温がありと必ずチェックに引っかかる。最後には、きみはいま、大丈夫か、と心配される。ふつうに生きているだけでこう。プールの授業なんてほとんどを見学で過ごしてきた。

それでもふしぎだ。ぼくの手は、寒い日には暖かくなる。
それに、彼女。彼女と話すと顔が熱くなる。

冬眠から目覚めるみたいに。
体が、熱を持つ。たぶん、体温は34度なんだろう。それでも彼女を思うと体が熱くなる。これが恋ってか。ぼくは、最初は、浮かれた。でも、そのうち、そして今は、怖くなっている。

恋。相手からの気持ち。そこに、期待をするなんて、それこそおとぎ話だ。
その現実に気がついたからだ。

おとぎ話ですら、悲恋はやまほどある。マーメイドは泡になるし。失恋した腹いせに別人に惚れるように惚れ薬を飲ませて恋の狂乱と苦痛を与えたりするし。

恋とはクマが起き上がって、ぼくの前にヒグマとしてやっと立ちはだかって、ぼくが実はクマの冬眠なんかではなくてクモの巣に囚われていることを報せる、残酷な、現実を万人に知らしめる、試練。
今はそう思う。

むずかしいから。
告白するのも怖い。
でももっと仲良くなりたい。
でも怖い。拒絶が怖い。クモの巣にひっかかって動けない。

今は、ようやく、ぼくも本音を言えるだろう。
そう思う。

「体温が低過ぎる。○○くん、今は大丈夫?」

「大丈夫じゃないです」

でも多分、皆、皆が、大丈夫じゃない。体温が何度だろうとも。大丈夫じゃないんだ。


END.

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海老ナビ
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