虹の餌

虹が産まれる場所には奇跡がある。たとえば、人魚姫が真珠からはなひらき、新たな命として生きる瞬間。たとえば、千年妖怪が息絶えて、ぱたりと倒れて空気に溶けてゆく、その瞬間。不幸も幸せも世界にすると等価値だから変わりなく、平等におなじく評価される。奇跡に値する瞬間になる。

人魚姫が泡になるときだって、虹ができた。

このたびの虹は、地球で初めて、人間が起こしたものだった。人魚の肉を釣って焼いて食べた、縄文時代から生きてきた、陸地の生きる化石が、魔女と取引してようやっと死ねることになったのだ。これはまさしく奇跡であると世界は受け容れた。この死は奇跡。きれいな虹がかかって、空を見上げるごく少数の生き物たちの目を楽しませた。そして縄文人の生き残りは消えた。

虹が潰えると、海から魔女がやってきて、虹の根っこに生えていた石を拾う。縄文時代の人間が、魔女との取引によって、無機物に変幻した姿である。命のないタダの石。

これこそ、縄文人の生きる化石が望んだ死ねる方法であった。そして魔女は縄文時代の男を化石にして手に入れた。

虹の根本は、七色をすべてまぜてごたごた煮込んで、濁ったようなドドメ色をしているもの、で、ある。


END.

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