魚性
ある女性が献血に行ったところ、ABO式血液検査に当てはまらない稀血(まれけつ)であると判明した。大学院で検査を受けて、彼女の血液型はA型、ただし魚類に多くみられる魚型のタイプAとの実験結果がえられた。魚とほぼ同じ稀血で生きる彼女は、被験体『人魚』と呼ばれるようになった。
彼女自身は、平均的かつ平々凡々たる一般市民だった。心理テストも与えられたが標準的人類のひとりだった。
ところが、この実験報告が学会でなされたところ、世間は大騒ぎになった。巷では人魚伝承なるものが流布されており、人魚を食べると不老不死になるなどという言い伝えがあった。そこでの『人魚発見』報告である。人魚は実在してた、この論文がソース、人魚は誰だ? などと、ネットやSNSでまことしやかに人魚狩りがはじまった。くだんの女性は完全なる一般市民であるし、研究機関としては血液だけの試験結果であるから、人魚狩りがはじまるなんて彼女と彼らは夢にもおもわず、がくぜんと世論に翻弄された。大学は人魚伝承の人魚ではないと発表したが、SNSでは陰謀論が唱えられてまったく信じられなかった。信じられるのは人魚、人魚の実在、この世に人魚がいることだけ!!
くだんの女性はこうして見ず知らずの何億人もの人類に命を狙われる身となった。彼女の敗因は、信じたこと。
この世は平和であって当たり前なのだと、信じたことだ。
END.
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