足あとが踏めない
異様なる妖怪、一本傘は悩んだ。生まれつき、二本足になる仲間もいるが、自分は一本足だ。多数派は一本足なのだけれどそういう問題ではない。自分は悩んでいる、だから問題なのだった。
足が一つしかないから、人間のまねが、できない。
足あとで、すぐバレてしまう。
ああ、これは一本足だから、妖怪ね。たぶん一本傘よ。だって一本足だから。一本傘なんて大したこともできないから安心おし。
人間の親子のそんな会話を聞いたこともある。一本傘としては、なんとしても足あとをふたつ、残したかった。
誰かを怖がらせたり、震えさせあり、足あとだけでナニかチカラを見せたいのだ。
一本傘は悩んでいた。
そこに、
「わかる!」
「わかる、わかるわ!」
洞穴の奥から、若い女が声をはりあげた。一本傘がふりむき、見つける。見た目は美女であるが下半身はまるっとしたボディとヒレのついた尾。美なる異様、人魚だった。
一本傘は、その異様なる姿にすぐさま合点した。なるほど! と。
「だろう、だろう。オマエならわかるだろう!」
「もちろん。一本脚だもの」
人魚は、ヌラリと伸びる下半身を見下ろし、かぶりをふる。ため息まで漏らした。
そうして二匹は同時にぼやく。
『人間の二本の足が欲しい「の」「んだよぉ」』
慰めあう二匹である。ただ、一本傘は、人魚に二本脚を欲しがる理由は聞かずにおいた。
なにせ海の魔物なる怪物。
ろくな話じゃ、なさそうだ。妖怪にもそれなりに個人なりの分別はあるのだ。
END.
いいなと思ったら応援しよう!
読んでいただきありがとうございます。貴重なチップ、励みにいたします!