桶と泡だらけに包まれる人魚姫の話

マーメイドが桶を見つけた。人間が落としたか捨てたか、いずれにせよ使い込まれた古びた黒ずんだ桶だった。
マーメイドは、桶に頭をつっこみ、好奇心といっしょに転覆した。しばらすると桶を頭にかぶってざっぷんと海上に頭を戻した。 

「…………」

人魚姫は、しばし考える。
桶を両手に持ち上げて、すいすい泳ぐ。桶を海に置くと浮く。また桶に自分も乗ってみるが、今度は沈まなかった。あらあら。

マーメイドが身を乗り出した途端に、桶はバランスを失ってざっぶん、また転覆。
しかし、今度もまたマーメイドは目撃した。いっしょに沈む桶から泡がブクブクはじけでる。ブクブクした泡が桶を包み込んで隠している。マーメイドは、桶をひっくり返して、泡のもとになる海上の散布ぶつを桶に吸わせた。

それから、桶の扱い方、桶と友達になる方法がわかってきた。

桶のなかに入ってバランスをとりながら、ゆらゆらゆらゆら、揺れる。遊ぶ。
桶を海にかぶせて、人間の使い方で言うならひっくり返して、今度は桶に座ってみて、ゆらゆらゆらゆら、揺れる。遊ぶ。

それから、ざっぷん、桶を海に沈めて泡だくになる自分自身を楽しんだ。マーメイドは、宝物として棲家に桶を持ち帰り、マーメイドたちは数匹がかりで何時間も桶で遊ぶなどした。泡泡。泡だらけになりながら。

桶から産まれた、幸福な泡の人魚姫たちの話である。


END.

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海老かに湯
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