あさましテレビ
その日、都内で長い渋滞ができていた。事故が起きたわけでもなく、催し物が行われているわけでもなかった。テレビ局はその姿をカメラに収めるためにヘリコプターまで出して空撮を行った。ズラリと並ぶ車の列をなめるように、画面は上下しながらその先にようやく小さな姿を捉えた。
「ご覧くださいっ! カルガモ親子のお引越しです! 雛がはぐれないように最寄りの警察署からは警察官がかけつけました!」
ヘリコプターの中継からカメラはスタジオへと切り替わる。
「なんとも微笑ましい光景ですねぇ」
「ホコホコしてて触りたぁい♡」
男女二人の司会者は自然と笑顔になっていた。
しかしその数分後、スタジオの空気は一変した。
「さて、ここで速報です。交通整理をしていた警察官がトラックに轢かれ死亡との速報が入りました。ドライバーは道から飛び出てきたカルガモ親子を避けるためにハンドルを切ったと証言しているようです。現場からすぐに救急車を要請しましたが、渋滞により現場への到着が遅れたということです。ご冥福をお祈りします」
男性アナウンサーは数秒頭を下げたあと、いつものように明日のお知らせをした。
「さて、明日のこの時間は…」
いつも通り声を弾ませて女性アナウンサーもそれに応えた。
「夏バテをぶっとばせ特集の第二弾!滋賀県から骨まで食べられるカモ鍋特集をお届けしまーす! ぜひご覧ください!」
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