依頼人は縄文人

「続いての依頼人の登場です!」
司会者は軽快なトークとともに依頼人のプロフィールと依頼品を紹介した。
「ウポポさんはどちらから?」
「あっ、はい。タイムマシンに乗って縄文時代から来ました」
「タイムマシンだなんてよく持ってましたね」
「ウポのではなくて、この番組を教えてくれた友達のマヤ人から借りたんです」
「そうですか、わざわざ遠いところからありがとうございます。いやぁ、この番組もずいぶんとワールドワイドになったもんだ」
「いえいえこちらこそ光栄です」
アシスタントが依頼品を運び込むと、スタジオの誰もがその禍々しさと神々しさが同居する壺に目を奪われた。
「うわっ、これはすごい…」
これにはお喋りな司会者も思わず息を飲んだ。
「今回の依頼品はどういったものなんですか?」
「これは鳥葬(ちょうそう)の際に用いられていた儀式用の壺でして、古くなったので処分に困ってて…」
「なるほど」
「それで、一族のみんながどうせなら何かと交換して来いって言うんです。それでウポが今日来ました」
鑑定はおなじみの鑑定士に加えて民俗学者が行うことになった。息がかからないようにハンカチを口に当てていたが、時折出る唸り声をマイクが拾っていた。
「それではオープンザプライス!」
「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん…」
機械的な声とともにディスプレイの数字のゼロが増えていく。
「じゅうまん、ひゃくまん、せんまん、いちおく…」
会場にどよめきが起こるなか、ディスプレイは0で埋め尽くされた。
「こんな表示は今までに見たことがありません。解説をお願いします!」
司会者は鼻息を荒くしながら鑑定士に熱い視線を注いだ。
「いやー、これは見たことがありません。私たちが価値をつけることなんてできませんよ! 」と鑑定士。
「歴史的にも一級品のお宝です! 粘土質の土が赤くなっているでしょう? これは赤土ということではなくて、先ほどウポポさんが仰ったように臓物を神に備えた時に滲んだものなんです。これは国宝というよりも人類史に残る宝ですよ! 今すぐにでも保護すべきものです」
民俗学者は机を叩きながら熱弁をふるった。
「…ですって!ウポポさんどうします?」
目を丸くしながら司会者がウポポにマイクを向けた。
「んー。別に構いませんけど、代わりに一つ願いを叶えて頂けませんか?」
「と言いますと?」

こうして収録を終えたウポポは一族の待つ縄文時代へと帰っていった。
「で、どうだったんだよ?ウポポお宝は?」
首を長くして待つ一族の前でウポポは四角い厚紙を取り出して空に掲げた。
「これを見ろ!人間の姿をしたトカゲ型エイリアンのサインだ!」
「それは本当なのか?」
「ああ、間違いない!あいつはスタジオの中で一言も喋らずに人類を監視していたからな!」

✳︎「タイムマシン」が募集キーワードだった時に書いたもの。
「なんでも鑑定団」をネタにして石坂浩二さんをオチに使いました。
はい、不採用でした。
#小説 #ショートショート

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